花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
十八時。

「おつかれさまでした」

バイトが終わると私はまっすぐ病院のロビーに行く。
目的は当然、春櫂先生作の櫻坂の絵。

毎回バイトの帰りには絵の前に立ってじっくり鑑賞している。
祖母が亡くなったときに、この絵は病院でずっと預かってもらうようにお願いした。
病院にお見舞いに来ることがなくなって以来、久しぶりに見ることができている。

あの日見たときからこの絵はずっと優しい気持ちをくれる。

絵をよく見ると、白い花の中に薄いピンクがあるだけじゃなく、花弁の部分に胡粉(ごふん)という絵の具でつけられた凹凸がある。すごく丁寧に描かれていて、奥行きを感じる絵。
櫂李さんが絵を描くところを間近で見たり、日本画のことを勉強している今見ると、当時とはまた違ったすごさなんかも理解できる。
この絵を見ると、彼のしてくれたことがどれだけ温かかったのかを改めて感じずにはいられない。

『まさか本当に自分がミューズだなんて思っているわけじゃないわよね?』

この絵の前ではあんな言葉は何の意味も持たない。

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