花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「絵にすべてを描けるわけではないとはわかっているんだ。でも納得がいかなくて困っているよ。本物の美しさにはなかなか近づけない」
「っん……」
ふいに彼が私に口づける。
私に覆い被さって、暗がりで瞳を見つめられる。
静かな部屋の中に、布の擦れる音だけが響く。

「何を考えてる?」
「何も……ぁっ」
思わず目を逸らすと、彼が私の耳朶を優しく噛む。

「嘘は良くないな」

耳元で囁いて、また唇を奪う。
絡めた舌から伝わる熱が「好き」って言ってくれてる。
「ん……あん」

あなたは、他の人もこうやって愛してきたの? 透子さんも?

意味の無いことを、ずっと考えてる。
それを知ってどうするの? って、自分にずっと問い続けてる。

「櫂李さんの全部を手に入れるには、どうしたらいいんだろうって考えてます」
彼の首に腕を回して、今度は私が瞳を捕らえる。

全部。
身体も、心も。
声も、匂いも、体温も、眼差しも。

「私の全ては木花のものだ。あの日から」
彼が優しく笑って言ってくれる。

だけど私はわがままだから……あの日よりも後だけじゃなくて、あの日の前も全部欲しいって思ってる。
そんなこと、絶対に無理だってわかってるのに。
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