花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—
「え、自分の分は自分で払うよ」
支払いのタイミングで、私と颯くんは少し揉める。

「いいって。昔からおごってただろ?」
「でも、今はカードがあるし……」
櫂李さんが自由に使ってって持たせてくれたカード、普段はあんまり使ってないけど。

「俺が木花と食事に来たかったんだから、かっこつけさせろよ」
「……じゃあ、ごちそうさま」
本当はあんまり借りを作りたくないんだけどな。

颯くんは車で門の前まで送ると言ってくれた。

「結婚生活は相変わらずうまくいってるのか?」
運転している颯くんに聞かれる。

「うん……」
「なんか前に聞いた時より自信無さげじゃん」
「うまくいってないわけじゃないよ。さっきも言ったけど、私が子どもなの」
窓の外を見ながら言う。

「木花、俺なら——」
「あ! そこで大丈夫、おろして」
車が門の近くに到着した。

「今日はどうもありがとう。ごちそうさまでした」
「木花、ダッシュボードのとこ開けて」
「え?」

彼に言われた通り、目の前の小さな扉を開ける。
そこにはギフト用に白いリボンがかけられたブルーの小さな箱があった。

「ちょっと早いけどクリスマスプレゼント」
「え……もらえないよ、私何も用意してない」

「いいよそんなの。俺が木花にプレゼントしたいだけだから」
「だってこれ、アクセサリーじゃない?」
色を見れば誰でもわかるようなブランドの箱。

「うん、ブレスレット」
「そんなのますますもらえない!」
「なんで?」
「なんでって」

既婚者が異性からのアクセサリーなんて、貰ったらいけないって私でもわかる。

「今までだって毎年プレゼントあげてただろ? 幼なじみからのプレゼントに何の問題があるんだよ」
意味を私に委ねたような颯くんの問いに、一瞬静かな間ができた。

「あ……うん、そうだね。ありがとう。今度何か返すよ。櫂李さんにも相談して、颯くんが喜びそうなもの考えるから」
「この——」

「じゃあね! おやすみなさい」

そう言って、私は車をおりて門に向かった。
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