花とリフレイン —春愁切愛婚礼譚—

第拾陸話 吐露

二十時半。

「おかえり木花」
「た、ただいま」

やましい気持ちなんて無いのに、私を迎える櫂李さんの笑顔にドキッとしてしまう。
前に颯くんと家の近くで会った後の彼は少しだけ怖かったから。

「顔が冷えてるな。外は寒かったんだね」
彼が私の頬に両手を当てて微笑むから、思わずキュンとときめいてしまう。

「もう十二月……だから」
ときめくたびに、他の人にもしたのかなって過去を想像する。

「あ、私、身体が冷えたからお風呂に入ります」
なんとなく気まずくて早く部屋から出ようとしてしまう。

コートを脱いだ瞬間「コトッ」と畳の上に何かが落ちる音がした。

「これは」
櫂李さんが拾い上げたものにギクっと身体がこわばる。
彼の手には颯くんがくれたプレゼントの箱。

「木花、今日は誰と食事に行った?」

彼の声が少し冷ややかなトーンになって、私は黙ってしまう。

「幼なじみの彼か?」
「だ、誰だっていいじゃないですか。友だちです」
思わず目を逸らして言う。

「君が友だちだとか兄のようだと思っていても……いや、まあそれはいい」
彼は困ったようにため息をつく。
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