カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜
恋が終わるとき

大好きだったひと

今日の五時間目から始まる予定だった再試を、私は結局受けなかった。

その瞬間に、私の中間試験の成績ゼロ点は確定した。
停学か退学を免れて進級する為には追試しかチャンスは残っていなくて、それでも本試験の成績がゼロ点であることはもう覆らない。

会いたくなかったけれど、手を回そうとしてくれた本郷先輩と一緒に一年生の学年主任に報告に行った。
本郷先輩にはいつも取り巻きの子達がくっついている。

だから私達の会話が広まるのも一瞬だった。

入学試験をトップでクリアした生徒会員が、学園で初めての試験で最下位に陥落したって噂はあっという間に学園中に広まった。
クラスメイト達が何人も「体調不良で休んでたんだ」って弁解してくれて嬉しかったけれど、本当はそんな噂なんてどうでも良かった。

登校しようと思えばできた。
混乱する頭でもある程度の点数は取れたかもしれない。

それでも試験を受けないことを決めたのは私だ。

本郷先輩に大口を叩いた手前、追試でなんとかしないと悔しいけれど、再試のチャンスを先輩に貰うよりはマシだと思った。

その日の放課後はちゃんと生徒会に出ようと思ったけれど、担任に生徒指導室に来るように言われて、顔を出せなかった。

中村さんにお詫びのメッセージを送ったら「だろうねぇ」って返ってきて、先輩達は何か知っているみたいだった。

生徒指導室に呼ばれたのは、やっぱりあの日、三年生の教室で騒動を起こしたことへの反省文を書く為だった。
私は騒動を起こした理由は書かなかったし、悠太のことも本郷先輩についても触れなかった。
ある出来事からの八つ当たりです、なんて頭のおかしい女みたいなことを書いた。

反省文を書き終えるのを、一緒に待ってくれていた担任が言った。

「三年生から須藤さんを生徒会から辞任させろって署名が集まってるの。でもね、校長と生徒会長である本郷くん、それから理事長もその署名を棄却したわ」

「私、生徒会辞めてもいいです」

「署名は棄却されたのよ。心配しないで」

「なんで棄却されたんですか。私は生徒会に相応しくありません」

「あなたの日頃の生活態度を表す内申点。それから入試の成績。今回の中間試験に関しては体調不良だし、騒動を起こしたことについても優秀な生徒が抱えてしまったストレスに気づけていなかった責任があるって、理事長…お父様はご子息への態度についても不問にしてくださるって。むしろ校長も理事長も署名のほうにお怒りだったわ。何より会長の本郷くんがね。絶対に辞めさせないって」

私は学園にそんな風に思ってもらえるような高尚な人間じゃない。
本郷先輩に手を上げたのも感情が抑えられなかったからだし、試験だって受けなかったのは私だ。
原因を作ったのは本郷先輩だけど…。

「あの人が居るから辞めたいのに…」

「須藤さん。先生は何があったかまでは聞かない。あなたが起こした騒動は反省するべきだけど、事情があったのよね?でもそこまで問いただしたりしないわ。でもね、自分がだめだなんて思わないでね?普段のあなたを見てるのも、内申点をつけたのも私よ」

「先生…」

「成績はもちろん申し分ないけど。それだけじゃない。須藤さんの人柄を私は知ってるわ」

反省文を書く為に渡された作文用紙を手の平で拭った。
落ちた涙のせいで、文字がちょっと滲んだ。

「ごめんなさい」

そう言うしかできなくて私に期待してくれていた人達を裏切ったことへの罪悪感がジワジワと押し寄せてきた。
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