カラダもココロも甘く激しく溺愛してくる絶対的支配者様〜正しい恋の忘れ方〜

本当の出会い

七月になった。
窓を閉め切っていても蝉の大合唱がうるさかった。

六月半ばから制服が夏服に切り替わったけれど、冷房が効いてるし体質はひとそれぞれだから強制じゃない。

私は七月になって、入学して初めて夏服に袖を通した。

「今日の朝礼は生徒会長からお話があります」

担任が教卓から横に一歩ズレて、みんなに言った。

「え…」

出しかけた私の声は、クラスの女子達が上げる声に掻き消された。

そんなの聞いてない!どういうこと!?

「二人とも入ってー」

担任が廊下に向かって声をかけた。
一年C組の教室に入ってきたのは本郷先輩と中村さんだった。
二人ともプリントのような物を持っていた。

本郷先輩を目の前にして、男子までもが「うわっイケメン!」とか声に出てしまっている。
中には自分の顔を見られたくないって机に伏せる女子まで居た。

「はーい、みんな静かに!」

担任が騒がしい教室を静かにさせてから、本郷先輩が教卓の前に立った。

「皆さん、おはようございます。生徒会長の本郷 カナデです。今日から七月に入ったので皆さんにお願いがあって参りました」

息を飲んで先輩の言葉に耳を傾けるクラスメイト達。
こんな光景を見ていると、まるで生徒会員達が本郷先輩にときめかないように訓練されて特化された生徒のように思えてくる。

中村さんに至っては本郷先輩なんて慣れっこって顔をして、凛とした表情で前を見据えている。
背筋がピンと伸びていて綺麗だった。

「七月下旬から夏休みに入ります。皆さん一年生はこの学園での初めての夏休みです。夏休み中であっても我が校の生徒であるという自覚を持ち、規律に背くことなく夏休みを楽しむことを約束してください」

本郷先輩はスピーチに慣れっこだろうから、台本なんか読まなくても、一回も噛まずにスラスラと話す。
なんだか「ちゃんとしてる」先輩って新鮮。

「今から一人一枚、夏休みの規律事項を配ります。各自読んでいただき、一番下に署名欄があるので記名してください。署名した人から僕のところまで持ってきてください」

「えっ!手渡しとか死んじゃう!」

声を出した女子に、先輩は優しく笑って言った。

「死なれたら生徒会長解任になっちゃうから死なないで」

その言葉を受けた女子は魂を抜かれてしまったみたいに背もたれに深く沈んでしまった。
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