俺様御曹司は逃がさない
おそらく宗次郎はそんな人じゃない。

じゃなかったら、あんな焦ってあたしを助けたりはしないでしょ。それに、何かをしようと思えばできるタイミングなんて、いくらでもあった。

・・・・九条は“あたし自身の心配”をしてくれているのか、“自分のモノにちょっかいを出されるのが気に入らない”だけなのか……どっちなんだろう。


「いくら目の敵にしてるからって、道を踏み外すような行為はしないでしょ」

「お前さ、ふざけてんの?なんで分かんねーかな」

「は?なにがっ……!?」


あたしの両手を九条は片手で掴み、頭上で固定された。


「おら、逃げてみろよ」


脚がまだある……と思ったら、脚を脚で固定されて動かなくなった。


「なんとかできんだろ?」

「っ!!いい加減にして!!」

「こうなったらどーするわけ?」

「だから、宗次郎君はっ……」

「こういうことしないって?はははっ。お前さ……男ナメすぎ」


あたしを見下ろす九条の瞳が、一切光を通してなくて、酷く冷たいものだった。


「なぁ、早く逃げねえとヤっちゃうよ?」

「……っ、やめて」

「クク。お前、痛い目見ないと分かんないタイプっしょ。俺が分からせてやるよ、頭のてっぺんから爪先まで……たっぷりとな」


何かを咎めるような冷めた視線、冷たい瞳で蔑むようにあたしを見ている九条。

怒っているとか、そういう瞳ではない。

そんな九条が“怖い”……そう思ってしまった。

いつもの軽薄でおちゃらけてヘラヘラしている九条が嘘なのか、本当なのか。

こっちの酷く冷めきった九条が本当なのか、嘘なのか。


どっちが本物で、どっちが偽物なの……?


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