だって、そう決めたのは私

第42話 きっと、きっと大丈夫

 刻んだ玉ねぎを炒めながら、昼間のことを思い出していた。佐々木くんと話したことだ。

 チョコレートを一緒に食べて、カナちゃんの話になって。料理は僕がするって言ったからだろう。彼に、玉子焼きのことを聞かれた。だから僕も普通に、佐々木くんの家の玉子焼きはどんな味だったか、を問うたのだけれど。彼は不思議なことを言ったのだ。『長く食べさせられてきた味は甘かった』と言った後で、『母が作ったのは何味だったのか』と。つまり、その甘い玉子焼きを作っていたのは、母親ではない。受け答えもしっかりしているし、とても良い育ち方をしたのだと思っていた。たが、それは僕が勝手に思い込んだことだ。彼にだって、色んな事情があるのだろう。

「決めつけは良くないな」

 ひき肉をフライパンに入れながら呟いた。今日の夕食はキーマカレーだ。帰宅時間が遅くなってしまったから、苦肉の策なのだけれど。カナちゃんはこれが好きだから、良いとしよう。ただ気に入らないのは、これはまぁくんの味だということ。カレー屋の試食をしていた時、彼女が一番気に入ったもの。悔しかったけれど、レシピはしっかり教わっている。ぬかりはない。

 そういえばこれを教わった時、まぁくんに笑われたな。どんだけカナコが好きなんだよって。あの時は、まだ好きだなんて様見せてないはずだ。僕は、そんなに分かりやすいのかな。それとも、昔の名残でそう言うんだろうか。だとしたら、少しくらいカナちゃんにも伝わっているのかな。

「ただいま」

 玄関から疲れた声が聞こえた。でも、ここへ入って来た顔はもう明るい。きっとこの匂いに釣られたのだ。

「あ、カレー?」
「おかえり。そうだよ。キーマ。だからすぐ出来るよ」
「やった。手洗ってくるね」

 ルンルン、浮かれたように、カナちゃんが洗面所へ消えて行く。その姿が妙に気になった。

 手を洗い終えたカナちゃんは、鞄から弁当箱を出す。忘れずにすぐ出すんだよって百合に言われてるからね、と笑いながら。何だろうな。いつもなら気にならないことが、なんかちょっと引っかかる。帰って来てから、いつもこんなに笑ってたっけ。

「何か手伝う?」
「あ、じゃあカトラリーお願い。スプーンとフォークかな」
「わかったぁ」

 気になり始めると止まらない。カレーを盛り付けながら、スキップでもしそうな彼女をじっと見ていた。もしかして、もしかして。
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