だって、そう決めたのは私
「腕……」
「ん?」
「腕時計が良い気がします」
「腕時計?」
「あ、はい。獣医さんですよね。医療関係の友人とかは、指輪は休みの日にしかつけないって聞いたことがあって。腕時計なら、仕事の時もつけていられますし。まぁその……奥さんの好みが分からないですけど」

 何故か最後、少しモジモジしてしまったが自信はある。俺の両親は、結婚指輪でなくて揃いの腕時計をしていたからだ。

 保育園の頃、パパとママは揃いの指輪をしているものだと友達から教わった。けれど、うちはしていなかったから大泣きしたんだ。二人は僕のパパとママじゃない。僕は他の人の子供なんだって。でもその時、母さんが教えてくれた。お仕事で動物を傷つけたくないから腕時計なのよ、って。
 

「なるほど。そっか。それは考えなかったな。それなら確かに、つけ外ししなくていいもんね。ベルトなら僕が作れるし。時計の部分だけなんとかすればいいんだ」

 中川さんの顔が、パァァッと晴れた。この計画、上手くいくといいな。母さんの本心を、彼にも知って欲しい。だからこのことは、担当者というよりも息子として、彼の背を押そう。出来る限り力になろう。だって母さんからは、きっと伝えないから。

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