だって、そう決めたのは私
「なぁ、カナコ」
「ん」
「お前も俺に言う必要はないけどさ。自分の気持ちには正直にいろよ。だからな。もしも、他の誰かを好きだって少しでも思ってるなら、早めにアイツを開放してやってくれ」
「開放って」
「いや、開放だろ。カナコにだって選ぶ権利があるように、宏海にだってあるんだぞ? お前だけが好きにしてていいわけじゃない。他の人が出来たなら、解消する。そういう契約なんだろ?」

 分かってるわよ、と言って口籠った。単に面白くなかったから。だって、匡には本当に言われたくない。宏海の中には匡がいて、私はそれに嫉妬さえ覚えてしまうというのに。ムスッとカウンターに突っ伏した。苛立ちと悔しさ。芽生えた感情のやり場が分からず、薄っすらと涙ぐんでいた。この生活を終わらせたくないから言えないんだよ。つい、そう漏らしていた。

「私……好きよ。きっと」

 きっと、いつもと違って匡が素直だったから。私の心の中で、何かが解けていたのだと思う。じゃあ、と零してから言い淀む匡。私は力のない笑みを見せるのが、やっとだ。

「言うつもりはないの……今は、まだ。私、先にちゃんとしなくちゃいけないことがあって」

 口にしてしまえば清々しい。スッと頭を上げた時、匡はまだ驚いた顔をしていた。カナタのことが最優先なのは、どうにもならない。私はこの二十年を彼に償わなければならないから。匡は何か言いたげな顔をしている。あまり掘り下げられたくもないし、内緒にしてね、と戯けるしかなかった。
< 227 / 318 >

この作品をシェア

pagetop