だって、そう決めたのは私
「どした? 大丈夫?」

 暁子が心配そうに、こちらを見ていた。二十年も会えずに居た息子からのメッセージを見て固まっているのだ。何かあったのかと思われても仕方ない。涙を堪えて、携帯を彼女に差し出した。

「え? ご両親のところに行きたいってことよね」
「うん」
「良かったじゃない」

 うん、と唇を噛んだ。暁子には言えなかったけれど、色んなことを考えていた。親が元気なうちに、孫にもう一度会わせてあげたい。けれど、カナタの気持ちを無視してはいけない。じゃあ、その間に両親が倒れでもしたら? そうやって、最悪なことまで考えていた。

「ということは、あれだ」
「ん?」
「玉子焼き、実家で作ったらいいのよ。宏海くんには、両親に作ってあげたくてって言えばいい。実際食べるんだろうし、嘘にはならないでしょう?」

 滑らかに、その日を想像して口にした暁子。彼女の得意げな顔を見ながら、確かにそうだな、と思う。ちょうど、宏海とも両親の老い先について話していたし。今してあげられることをしたい。そう言えば宏海だって納得するだろう。まぁ、仮に彼が今想像していたみたいに考えていたら、だけれど。

「そのくらいなら、芝居下手なカナコにだって出来るんじゃない?」

 意地悪な顔でこっちを見た暁子に、イラッとした表情で返す。でも、心は少し晴れた。一緒に悩んで、考えてくれる人がいて、私は幸せだ。言ってやらないけれど、あぁあ、私は本当にいい友を持ったな。
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