だって、そう決めたのは私
「……なるほどな。何となく、分かった。あ、でもさ。お前、どうして宏海にごめんって言ったんだ」
「それは、今日のことがあったから。私の最優先は、息子を両親に会わせることだった。だから、あの時点では自分のことなんて考えてられなかったの。でもさ……もどかしい気持ちもあって。ごめんなさいって。もう少し時間を貰えませんかって、そう言うつもりだったんだけど。先に謝っちゃったからか、宏海は何も話を聞いてくれなくて。実家に送ってくれる間も、ずっと一人で喋って、私が口を開こうとしたら止められちゃって」

どうしたらいいんだろう、と呟いて、溢れ出そうになる涙を堪えた。私は拒絶された。それを実感せずにはいられなかったから。

「アイツ、夕べ俺を呼び出したんだよ。そのくせ、俺の話も聞かねぇ。カナコにだって理由があるんじゃねぇのかって、散々言ったんだ。けど、まぁくんには分かんないよ、の一点張りで」
「うん……そっか」
「昨日はそのまま家に帰ったけど。多分、暫くアトリエに籠もるんじゃねぇかな。アイツはすぐ逃げるから」

 匡まで溜息を吐く。変なとこ頑固なんだよなぁ、と。三人に沈黙が訪れた。ジャズが少しだけ心を軽くさせようとする。また溜息を吐きそうになった時、大丈夫ですよ、と言葉が聞こえた。ここまで黙って聞いていたカナタの口から。

「ここに呼んだんで」
「呼んだ?」
「うん。中川さんを、ここに」
「え? どうして」
「だって、話を聞かなくちゃいけないでしょう? 担当者として」

 いや、担当者だけれども、そこまでしてやる必要はないだろう。そう思いはしたが、これは《《息子として》》が本音か。「お、よく分かんねぇけど、ナイスだ。息子くん」と匡が言うから、ギロリと睨んでやった。


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