オディールが死んだ日に


その後は十日間連絡は取り合ってなかったのか、と言う質問をされ三日前に連絡が来ただけだと答えた。これにも刑事たちはどこか納得のいってない様子で


「確かにメール履歴は三日前のたった一通でしたが、夫婦ならもっと密に連絡を取るものでは?」とまたも年配の刑事に聞かれ


「公演中は妻の集中を邪魔したくなくてね。よほどのことがない限り連絡は控えている」


これはもっぱら本当のことだ。


俺たちはいつもいつもそうだった。


翆が仕事のときもそうだが、俺も仕事の時は翆は極力連絡をしてこなかった。それが俺たちたった二人の夫婦の間の暗黙のルールだった。特に取り決めていなかったが、互いが互いの仕事を尊重し合う、俺たちはいいパートナーだと思っていた。


「奥様の最後の所持品ですが、このバッグの中に財布とケータイしか入っていなくて、見覚えのあるものですか?」と若い方の刑事がビニール袋に入れられた黒い小ぶりのクラッチバッグと、同じブランドの長財布、それからその中身であるクレジットカードやキャッシュカード、そして免許証、最後に淡いグリーンのケースに包まれたスマホを見せられ、確かに翆のものだ、間違いないと言う意味で俺は頷いた。


さっき遺体を見たときに確信した。遺体は翆だった。だが信じたくない俺がいつまでも存在する。


他人の空似、と。しかし所持品からは翆のものだと言う確証を近づけることしかなかった。


その後の質問はごく簡単なもので、翆が何かのトラブルに巻き込まれていなかったか、とか翆に最近変わった様子はなかったか、と言う再三聞かれた質問が繰り出され、俺はそれに同じ答えを返した。迷いなく、淀みなく。


刑事はそれを信じたのか、俺に一旦帰るよう促した。


「また何か分かったらご連絡します」と若い方の刑事は最後まで丁寧だったが、年配の方はどこかうさん臭さを感じるような目つきで俺を疑っている様子だった。


まぁ俺は昔から目つきが悪いとよく言われたし、前述した通り世間一般的な不良少年がすることは一通り経験した、そうゆう目で見られるのは慣れているが。



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