オディールが死んだ日に
十日前の夜『話したい事』と言うのはこのことだったのか。
分からない、
分からないが、翆が俺のことをそんな風に思っていてくれたなんて―――
正直、あまり仲の良い夫婦ではなかった気がする。大切にはしていたし、事実愛してもいたが、翆には世間一般的な”幸せ”を送らせてあげられていない気がしていた。心のどこかで俺と結婚しなければ翆はもっと幸せにもっと笑って、もっと怒って、もっと悲しんで、当たり前の感情を当たり前に出していたんじゃないだろうか、と思っていた。
しかし翆はそうじゃなかった。俺との生活に幸せを見出してくれていた。
目頭が熱くなる。俺は思わず目元を覆った。
17歳の小娘の前で泣くのはあまりにみっともない。しかし抑えきれないあらゆる感情が涙になって溢れてくる。
「おじさん……」いつの間にかすぐそばにいた結が俺の髪にそっと手を伸ばしてきた。
「悪い……ちょっと……びっくりして……」
「そうだよね……あたしもびっくりした。おばあちゃんが亡くなって遺品整理してたら、タンスの奥に隠されてたから」
「この消印は三年前、だけどお前のばあちゃんはばあちゃんが死ぬまでこの手紙の存在をお前に打ち明けなかった。と言うことはお前を翆に引き渡したくなかった、と言うことなのか」
「……分かんない。おばあちゃんはあたしのお母さんはあたしが生まれてすぐ死んだってずっと嘘ついてたから」
結は歳相応のちょっと拗ねたような或いは悲しそうな物言いですらりとした両足を投げ出す。
「でも、何でお前をばあちゃんの養子にしたんだろうな。お前の年齢からすると翆が20の時の子供だろう?父親は?」
「知らないよ。おばあちゃんはあたしの出生の秘密を何も喋らず逝っちゃったから」
「お前のじいちゃんは?このこと知らないのか?」
「おじいちゃんもあたしが生まれてすぐ亡くなったっておばあちゃんが……よく分からないけど何かの事故に巻き込まれて死んじゃったって…」
何かの事故―――……
「だからあたしの親はおばあちゃんだけだった」
そのばあちゃんを亡くしてさぞ気落ちしただろう。しかし憎まれ口を叩く程元気なのは、この娘の空元気なのだろうか。
俺はちらりと結の横顔を盗み見た。涙で滲んだその視界に映ったのはやはり翆に生き写しの
美しい横顔だった。