ジングルベルは、もう鳴らない

第28話 隣の扉

『朱莉、あの店見つけた』
『隣の部屋のあの人。カレー屋さんだった』


 そう送ったのは、日曜日の午後になってからだった。色んな感情が渋滞していて、泣くでもない、笑うでもない、ただぼぅっとしている。明確な恋心を抱くよりも先に、ぼんやりと輪郭線すら描く前に、終わってしまった。何とも言えない心の穴。力なく笑う以外ない。恋だったと思えても、恋だった実感すらない。そんな短い、あっさりとした恋だった。


「あぁ、朱莉」


 話が読めず、メッセージを打つのが面倒にだったのだろう。送信してすぐ、朱莉の名がスマホに表示された。出なくちゃ、と思うのに、なかなかそんな気になれないでいる。それでも、着信が鳴り止むことはなかった。


「もしも……」
「どういうこと? 何があった」


 ようやくタップすると、樹里の言葉の上から朱莉の声が被さった。その反応は正しいな、と他人事のように思う。彼女が気になっているのは、恋の話だろうか。それとも、探していたカレー屋の主人が隣人だった驚きだろうか。「あぁ、うん。驚くよねぇ」と発する樹里の声は、ひどく張りがない。


「隣人ってことは……だよね」
「まぁ、そうだね。ブンタの飼い主」
「普通に話をしてて分かった感じ、ではなさそうだね」


 そうだね、と認めたが、言葉はスルスルと繋がっては来なかった。辛くとも、朱莉には全て話そう。千裕の件で一緒に怒って、誰よりも寄り添ってくれた。それにどれだけ助けられたか。きっと今だって、心配してくれているのだ。樹里は、重たい口を開いた。
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