ジングルベルは、もう鳴らない
「アイツさ。病院に行って来たよって、エコー写真見せて来るんだ。大きくなって来たねって。それなのに、腹の大きさはちっとも変わらない。ぺったんこのままで、おかしいだろって。それから二ヶ月かけて、全部聞き出した。だからようやく、樹里に……」
「あのね」


遮るまいと心していたけれど、我慢できなかった。結局、何も分かっていないのだ。この男は今も、自分可愛さに動いている。そこに、樹里の気持ちはきっとない。


「子供がいるかどうかは、問題じゃないの。私は、嘘をつかれていたことが許せなかった。彼女の話以上に、嘘をついてまで二人で会ってたことが許せなかった。少なくとも一年、もしかしたらそれ以上よね。それを知った私の気持ち、あなた想像できる?」


 千裕から、すぐに言葉は出なかった。それがまた、悲しい。もう二度と関わり合いたくないが、ごめん、くらいは言って欲しかった。金輪際、関わりは持たない。改めて自分に言い聞かせた。もう千裕とは終わったこと。これから、また始まることなど有り得ない。

 千裕は黙り込んで、下を向いている。呆れてしまうが、きちんと終わりにしたい。溜息を零して視線を余所に向けると、近付いて来る人影があった。カツカツとヒールの音を立てながら、徐々に見えてくる顔。腕を組んで、勝ち誇った女の顔。その彼女が言った。だから言ったでしょう? と。
< 147 / 196 >

この作品をシェア

pagetop