ジングルベルは、もう鳴らない
「そんなことは、あなたたちには関係がないよね」
「えぇ隠さなくたっていいのに。でもいい加減、千裕も分かったでしょう?」


 ふと樹里は、違和感を覚えた。香澄はどうして、こんなにも千裕にこだわるのだろう。そもそも、彼は彼女の好みではないはずだ。好きで好きで堪らない、とも感じられない。子供がいると嘘をついてまで、どうして千裕を欲しがるのだろう。


「小笠原、分かってくれよ。子供ができたって言われたから、腹を括って指輪を買った。でも子供がいないのなら、俺は樹里とやり直したい」
「何なのよ。樹里は迷惑だって言ってるじゃない」
「そもそも、お前が嘘をつくからこんなことになるんだろ」
「どうして樹里なわけ? 私よりも、どうして樹里なのよ」


 香澄が本気で苛立っているのを見て、あぁ、と樹里は納得する。自分の中の疑問が、繋がったのだ。


「樹里。何なのよ。もう私の邪魔しないで」


 眉間に皺を寄せた香澄が、大きな声でそう言った。樹里はただ困惑する。邪魔をしているつもりもない。寧ろ、彼には消えて欲しいとすら思っているのに。首を傾げようとした時、後ろから誰かが近付いて来る気配を感じた。一人ではない、数人の足音が聞こえる。恐る恐る振り返った樹里が目にしたもの。


「ふざけんな」


 そう言いながら樹里の脇を抜け、香澄に突進して行ったのは朱莉。その後を追って来た大樹が、彼女の肩に手を掛けて二人を引き剥がした。

 樹里はただ唖然としている。どうしてここに、この子たちがいるのか分からなかったからだ。また人の気配を感じてハッと振り向き直すと、一番ここにいて欲しくない人と目が合った。それは、とても申し訳なさそうな顔をした斎藤だった。
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