ジングルベルは、もう鳴らない
「じゃあ、結果的に別れたんだから、もういいんじゃない。そっちで勝手にやって。お願いだから、私を巻き込まないで」
「そうよねぇ。私は、樹里を苦しめるつもりなんてないの。だって、もうあれから何ヶ月も経ってる。忘れるわよねぇ。別れた男のことなんて」


 香澄にそう言われるのは腹が立ったが、そうね、とだけ呟いた。今は千裕のことを思い出すこともない。唯一それに触れるのは、あの曲くらいだ。けれど、そういうのを乗り越えながら、前に進むものだと思っている。いつまでも同じ場所に、留まっている暇はない。


「千裕。そう言ってるよ? 樹里、困ってるじゃない」
「小笠原は黙っててくれ。俺と樹里の話だ」
「あ、いや。だから。私はもう無関係で、そちらで勝手に仲良く話し合ったらいいと思うの。何があっても、私が畑中さんのところへ戻ることはないし」
「あ、樹里。もう彼氏できたのぉ」

 どうしてこの女は、人の気持ちを逆撫でするのが上手いんだろう。冷静にしておかないと、香澄の思う壺だ。現状の大まかなことは聞いている。これ以上、事が大きくなるのはごめんだ。このままやり過ごしたい。 握り込んだ拳の内側で、爪がググっと刺さった。それを開きはしない。ただギュッと何度も握り込んだ。
< 149 / 196 >

この作品をシェア

pagetop