嫌われ毒婦の白い結婚 のはずが、最強幻獣騎士様の溺愛が始まりました⁉

 だが、そこではプライドの高さが邪魔をした。

 かつて格下に見ていた奴が自分の上司になる。アドルフにとっては耐えがたい苦痛だ。そのストレスから逃れるように、酒を浴びるように飲むようになった。
 一度染みついた生活レベルを下げることはできず、王都でも有数の高級店で気の向くままに高級酒を頼んだ。当然支払いはだるま式に膨れ上がり、あるとき実家から『これ以上ツケは肩代わりしない』と突き放された。

 爵位もない、身分もない、金もない。友人も、いつの間にか周りからいなくなった。

 何もかも失い、乾いた笑いが漏れた──。


 ぽたりぽたりと血が滴る手を見て思い出すのは、リーゼロッテのことだ。

 騎士として任務に当たっていたアドルフは、時折小さな怪我をすることがあった。そんなとき、リーゼロッテは丁寧に手当てをしてくれて、「大変なお仕事お疲れ様です」と微笑んだ。

 ふと、イラリアに断罪された際に懇願するような目で助けを求めてきたリーゼロッテの姿が脳裏に蘇る。

(もしあのとき、彼女の味方をしていたら──)

 そんなタラレバを語っても過去は変えられない。リーゼロッテの手を離したのは、アドルフのほうなのだから。

 アドルフは、記憶の中で微笑むリーゼロッテに手を伸ばす。
 触れるか触れないかのところで、彼女の幻影は掻き消えた。
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