婚約破棄?   それなら僕が君の手を

就職試験

 リシェルはルーナの事が気がかりだったが、婚約者のいる女性にあまり関わりになるのも良くないので、積極的には何も行動を起こさなかった。
 時々見かける事はあったが、俯き加減で歩く彼女を見守るだけだ。最初に見かけて以来婚約者らしき人物と一緒にいる事もなく、ただただ不安そうな彼女を気にかけていた。

 リシェル達が最終学年になると、卒業に向けての準備が始まった。リシェルは嫡男ではないので、何かしらで身を立てなくてはならない。かなり甘やかされて育ったと自覚しているが、両親がいなくなってしまったら、兄達にいつまでも頼っていられない。三番目の兄は騎士団に入ったが、それだけはリシェルには逆立ちしても無理な話だ。父に勧められるように王宮府の試験を受けて文官になるのが妥当なところだと思う。
 王宮府の試験はなかなか難しいと聞くが、幸いなことにリシェルは成績が良いので、なんとかなるだろう。
 アントンは騎士団の試験を受けるらしい。相変わらず細身のリシェルと違って、アントンは最近ますます筋肉とお友達になっていて「三角筋が」とか「広背筋は」とかリシェルには意味不明な言葉をよく使っていた。体格の優れた男性は女性の憧れの的だ、と聞いたことがあるが、アントンは残念ながらまったくそんなことはなかった。顔が怖かったからである。黒髪に立派な太い眉と力強い黒の瞳は決して不細工ではなかったが、女生徒たちはアントンを遠巻きに見ているだけだった。おかげで、一緒にいるリシェルにも女生徒は寄り付かず、大変助かっていた。
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