婚約破棄?   それなら僕が君の手を
 セイラはリシェルの兄であるジェシーと夜会に参加していた。
 セイラの好意を知ってか知らずか、ジェシーはリシェルを守る為に協力して欲しいと、夜会の一週間前にニオル家に手紙を寄越してきた。もちろん、セイラは理由はどうあれ憧れのジェシーと夜会に行けるのなら、と二つ返事で了承する。

 ニオル家まで公爵家の馬車で迎えに来たジェシーは、馬車の中で
「今夜はパートナーを引き受けてくれてありがとう。」
と礼を言う。今夜のセイラのドレスはジェシーからの贈り物だったので、セイラも
「こちらこそ、素敵なドレスをありがとうございます。さすがジェシー様ですわ、センスも抜群ですし、サイズもぴったりでした。リシェル様をあそこまで美しく着飾ることができるのも、ジェシー様の見立てがあってこそなのですね。」
とお礼をした。
 するとジェシーは苦笑いをして
「セイラ嬢を誘っておいてなんだけど、今夜の夜会は踊らないと思ってくれるかな?」
「まぁ、残念ですわ。でも、リシェル様に関係していることなのでしょう?それなら仕方ないですわね。私も微力ながら協力させていただきます。」
 セイラが微笑んで答えると、ジェシーはホッとした表情で
「よろしく頼むね。」
といった。

 二人で会場に入り、リシェルを探す。セイラはリシェルを見つけた途端に目を見張って
「負けましたわ。」
とため息をついた。それを聞いたジェシーは笑って言った。
「さすがでしょ?今夜はリシェルを魔の手から守らないといけないんだ。」
「理解致しました。」
セイラはもう一度リシェルを見て、ジェシーの腕に添えた手に力を入れた。
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