政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
プロローグ


街を一望できる高層階の一室で、桜羽(さくらば)貴俊(たかとし)は封を開け、取り出した書類の文字を目で追った。


「なぜ、そうまでしてお探しに? もうすでに辞めた者ですが」


デスク脇に立つ秘書室長の糸井(いとい)が不思議そうに問いかける。面識のない人間を探す、貴俊の行動が理解できないのだろう。

貴俊は顔をすっと上げ、芯の通った静かな眼差しで彼を見た。


「彼女が〝雪平(ゆきひら)明花(めいか)〟だから」


それ以上でもそれ以下でもない。ただそれだけだ。

貴俊の答えが腑に落ちないのだろう。糸井は首をわずかに捻り、不可解そうに眉根を寄せた。
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