政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない
謝っているくせに笑いは止まらない。
貴俊が悪く言われたのがおかしいのではなく、彼と他愛のない会話をするのが楽しいから。じゃれ合っているのが恥ずかしくて、それでいてうれしい。
「ともかく座って」
「ありがとうございます」
貴俊の隣に並んで座る。早速カップに口をつけると、まろやかな味わいが広がった。
「おいしい……」
「だろう」
明花の感想に気を良くしたのか、貴俊は上機嫌だ。
「自宅でもこんなにおいしいコーヒーが淹れられるんですね。お店じゃないと無理だと思っていました」
自宅ではインスタントがせいぜい。実家暮らしをしていたときは義母や義姉に豆を挽くところからコーヒーを淹れていたが、明花は飲むのを禁じられていた。
「今度、おいしい淹れ方を教えてください」
「それはできないな」