政略婚姻前、冷徹エリート御曹司は秘めた溺愛を隠しきれない

その夕方、お客をひとり見送って閉店の準備をしていた矢先、開いた店のドアから入ってきた人物を見て、明花は挨拶の言葉が尻切れトンボになった。


「いらっしゃ――」


驚き過ぎたためどうして?と思う余裕もない。貴俊だったのだ。


「そろそろ仕事が終わる頃だろうと思って」


パタンと閉まったドアを背にして彼が立ち止まる。
先日のお見合いのときに勤め先の話はしていないが、前もって父の秋人から聞いていたのかもしれない。


「いらっしゃいませ。お部屋をお探しですか?」


奥で書類の整理をしていた万智が、呆けたままの明花の後ろから顔を覗かせる。


「いえ、明花さんをお迎えに来たのですが、少し早かったでしょうか」
「え? 明花さんを?」


万智は、貴俊の言葉に目を瞬かせながら明花に振り返った。
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