嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

31

「あたしと、会いたいはずなの!」

 外の声で目を覚ました私は、なぜがベッドに寝かされていた。

(どうして? 私、ベッドに寝ているの?)

 なぜか執務室のソファーに子犬君がいて……オルフレット様に城について来たと聞いて……その後が思い出せない。
 
 それに、このベッドからオルフレット様の柑橘系の香りがする。となると、この部屋は執務室の隣にある、彼の仮眠室……。

 ここで、オルフレット様が仮眠しているの? だとしたら……ドキドキしながらそっと手を伸ばして、オルフレット様の枕を手に取り胸に抱きかかえた。フワフワで触り心地の良いシルク生地……オルフレット様の香り。

 い、いけないこと……。
 

「もう、いい加減にして!」
 
 
 きゃっ! え? こ、この声ってメアリスさん? 
 
「すみませんメアリス様。ただいま、オルフレット様に連絡をとっています」

「うるさい! 何度も、何度も、同じことをばかり!」

 イライラした彼女の声と我儘。私はその態度に憤りを覚えた――彼女はやはり淑女とはかなりかけ離れている。幼な頃に両親から淑女としての、礼儀作法の教えを受けていないようにも感じた。

「カウサ退いて!」

(各位上のカウサ様に礼儀もない――やっぱり、彼女は誰に対しても礼儀がなく距離が近い。そんな彼女を初めて見た、オルフレット様も珍しく感じたのかもしれない)


「「中に入れなさいよ!」」


 大声をあげて諦めの悪い彼女の声が聞こえて、外でガタッと大きな音が聞こえた。
 

「「⁉︎」」
 

「すみませんオルフレット様! 私では彼女を抑え切れません。メアリスさんを執務室へと通します」と、カウサ様の声が聞こえた。

「フン! 最初からそうすればよかったのよ!」彼女の元気な声と、扉が開く音が響いた。


 そして。


「オルフレット、会いたかった! あなたも私に会いたかったよね」

 元気な彼女と反対に、低く冷たいオルフレット様の声が聞こえた。

「別に……何の用だ、メアリス嬢?」

「もう何度も、メアリスと呼んでって言ったでしょ、とオルフレット」

「…………」

 オルフレット様をオルフレット⁉︎ と呼んだ。どうして彼女は、王族の彼にそこまで馴れ馴れしく出来るの? 彼の一声であなたは牢屋に入れられたり、国外追放になってもおかしくないのに。

「用がないのなら出て行ってくれないか?」

 執務があると退室を繋がったが、彼女は。

「やだ! あたしに会えなかったから、オルフレットったら拗ねているの? ……あっ、もしかして、婚約者のあたしの可愛いドレスを見て、照れているのね」

 可愛いドレス? 気になる。
 私は執務室と繋がる扉の前で移動した。

「……ところで、誰が? ボクの婚約者だと? ボクの婚約者は公爵令嬢のロレッテ嬢で、男爵の君ではない」

「ロレッテが婚約者? ア、ハハハっ! それはいまだけ。学園の最後にオルフレットとロレッテは婚約破棄しちゃうから」

「なっ!」

(え? オルフレット様と、こ、婚約破棄⁉︎)

 オルフレット様とメアリスさん――2人が付き合っていると思っていた頃はそう願ったけど。

 今は婚約破棄だなんて、そんなこと考えていない!

 勢いがつき扉に体が当たり。え? なぜか目の前の扉が開く。そして、仮眠室から枕を両手に抱えたボサボサの髪と丸メガネ、メイド姿の私が2人とカウサ様の前に現れた。
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