嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

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「なっ、何?」
「な、なんだ?」

 視察に出ているはずの、オルフレット様の声が近くに聞こえて、ロレッテは瞳を開いた。なんと目の前に現れた、丸い鏡のような光の中に、ロレッテのと似た眼鏡姿のオルフレット様がいたのだ。
 
 こちらの姿も、オルフレット様にも見えているみたいで。

「ロレッテ嬢? ……ロレッテ嬢なのか?」

 ジャケットを抜ぎ、ネクタイを外した、リラックスした姿のオルフレット様がいた。彼のシャツのボタンが何個か外れていて、その姿に少しドキドキした。

「僕の前にロレッテ嬢が見える、本物か? それとも会いたいと願った僕の幻なのか?」

「オルフレット様、幻ではありません、本物のロレッテですわ。オルフレット様こそ本物なのですか?」

「ああ、僕も本物だ」

 二人で同じ質問をして、同じ答えを言う、どちらも本物だと。だが、オルフレット様が側にいないからなのか……いつも聞こえていた声は聞こえなかった。

(側にいなくて……少し寂しい気もしますが、オルフレット様に会えて嬉しい)

 突然、鏡の様なものが現れて、会話をし出したロレッテに王妃は微笑み、手を張ると厨房へと戻っていった。

「あ、あの……私、いま、オルフレット様に会いたいと思っておりました」

「それは僕も同じ、今ロレッテ嬢のことを考えていた。父上が一日に"想い人"に一回会えるとおっしゃっていたのは、本当のことだった」

「ええ、そのようです」

 嬉しい。鏡越しだけど……彼が近くにいるみたいで、それに似たメガネ姿。それだけでほんわかして、ニマニマしてしまった。

「どうした? 嬉しそうに笑って、僕に会えて嬉しいのかい?」
 
「はい、とても嬉しいですわ」
「そうか、ボクも同じ気持ちだよ」

 オルフレット様も笑った。



 ❀
 

 
「そうか、そんなにサンドイッチ屋は忙しかったのか」

「ええ、大勢のお客様がいらっしゃって、とても忙しかったですわ」

 お互いに、今日の出来事を話しはじめた。ロレッテの話が終わると、彼は橋の修繕と近くの街や村の話をしてくれた。アルータ橋の修繕は翌日になったら魔法使い、大工を呼び開始すると話した。

「橋の修繕と周りの街や村を見回ったら、そっちに戻る」

 日数にして2週間くらい、かかるとおっしゃった。

「オルフレット様のおかえりを、ここで持っています」
 
「ああ、待っていてくれ。ロレッテ嬢が側に居ないが、声と姿が見れるのは嬉しい」

「私もオルフレット様の声とお姿が見れて、嬉しいですわ」

「その笑顔、可愛いワンピース姿は……他の者に見せたくないな」

「わ、私だって、オルフレット様のそのお姿を、他の女性の方に見せたくありませんわ」

 彼の本音を聞き、ロレッテも本音を言った。
 オルフレット様は瞳を大きくした後、嬉しそうに笑い。

「嬉しい、ロレッテ嬢もボクと同じか」

 それから、二人で他愛のない話をしたり。視察へ出る前にオルフレット様に渡した、焼き菓子が"美味しかった"と伝えられて。ロレッテはまた興奮してお喋りになってしまい、彼に笑われる。

 会話を始めてどれくらい経ったのか、ペンダントの光が消え始め、オルフレット様の声が遠くなっていく。

(あ、光が消えてしまう。オルフレット様の姿が消えてしまうわ)

「ロレッテ嬢、また明日この時間に会おう」
「はい、また明日お会いしましょう」

 ペンダンドの光が徐々に消えていき、彼の姿が見えなくなった。寂しいけど……また明日になったらオルフレット様と話ができると思うだけで、心が温かくなり幸せを感じる。

「明日が待ち遠しいですわ」

 それはオルフレットも同じ。

「明日が待ち遠しいな」

 今日の宿屋で、独り言を呟いたのだった。
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