嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

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 ロレッテが目を覚ますと真っ白な世界で、真っ白なソファに座っていた。だけど服装と見た目が……いつもと違っていた。

「ここはどこ? この姿は誰ですの?」

 シャツとスラックス? 頬に触れる黒い髪と日焼けした肌……自分が誰だか分からず、この状況も読めずにいた。ソファから立ちあがろうとした、ロレッテに誰かが声をかける。

「目が覚めましたか、サイトウアヤさん」
「サイトウアヤ?」

 女性の声でロレッテを"サイトウアヤ"と呼んだ……なぜだが分からないけど、その名前がロレッテにしっくり馴染んだ。

 昔からそう呼ばれていた? 
 じゃ、ロレッテは?
 
 訳がわからず、話を聞こうと立ち上がったソファ近く、床に頭をつけ、土下座をしている白い髪の女性がいた。

 彼女はロレッテに必死に謝っていた。

「すみません、すみません……私は生死を扱う女神ノア。私が起こしてしまった不祥事。あなたには謝ることしか出来ません」

 女性は女神ノアと名乗り、床にオデコを打ち付けたのか"ゴン"と鈍い音が鳴った。その後ろには執事姿の年配の男性が立っていた。

「失礼します、サイトウアヤ様。私はこの女神の上司、生死を扱う神シュールです」

 自己紹介のあと深深く頭を下げた。ロレッテの目の前に「生死を扱う神」と「生死を扱う女神」がいる。だが、説明がないまま一方的に謝られ、土下座されて、胸の中がザワついて仕方がない。

「すみませんが……謝ってばかりおらず、この状況の説明をお願いします」

 ロレッテが発した、精一杯の言葉だった。
 

 
「誠にすみませんでした。説明は女神ノアに任せます」

 それだけ言うと上司神の姿は消えて、真っ白な空間に女神ノアとロレッテだけが残った。

「あ、あの……サイトウアヤ様、まだご自分の前世を思い出しませんか?」

「私の前世?」

 前世と聞き、ロレッテの頭の中に別の記憶が溢れた。
 サイトウアヤはロレッテの前世。写真家の父とイラストレーターの母、アヤの3人家族だった。幼い頃から長い休みに入ると、キャンピングカーで車中泊をしながら、いろんな土地をまわっていた。

 春は菜花畑と桜、夏はひまわり畑、秋は紅葉、冬は雪景色。海と山、高台から見る朝焼け、海に沈む夕日はどれも格別だった。父がカメラでとき折々の風景画を写真に収め、母はイーゼルにキャンバスを立て風景画を描いていた。

 幼い頃の私は両親の真似をして、子供用のカメラで写真を撮り、スケッチブックスに落書きをしていた。

 キャンピングカーでの楽しい旅行は、アヤが高校3年の春まで続いた。両親との楽しい旅の終わりを迎えたのは、車での事故……その事故で両親を亡くしてアヤは1人になった。
 寂しさもあったが、両親と共に夢に見た美術大学を目指して、勉強に励み合格した。

 合格した後に残ったのは嬉しさと、喜んでくれる両親がいないこと。それを忘れるかの様に休みに入ると、近場に出掛けて、写真を撮り絵を描くそんな日々を送り続けた。

 綺麗なものを父の残したカメラに収め、母の様にキャンバスに絵を描く日々を送っていた。――しかし、そんな私に事故の後遺症がつきまとった。突如襲う強烈な胸の痛みで、病院に検査入院を繰り返した。

 その日は検査入院中だった。
 
「アヤさんは絵が上手ね」
「もう、覗かないでよアヤちゃん」

「いいじゃん、病室の窓側を譲ったじゃん」

「あのね、先に私がここに入っていたの……あ、わかったぞ、アヤちゃんは私の横にきたいのね」  

 ぽんぽんとベッドを詰めて叩けば、彼女は笑って横に座った。2人部屋に病室に私と同じ検査入院してきた、名前はイトウアヤ――高校3年生の女の子。

 同じ名前で、歳が近い私達は意気投合した。彼女は乙女ゲームが好きで窓から見える景色を、スケッチする私の横に来て彼女は乙女ゲームをしていた。

 そんなある日、彼女はアヤにゲームのキャラクターを描いてと願った。

「誰?」

「この人はね。私が愛してやまない、オルフレット様!」

「へー、イケメンだねー」
「まったく、興味なさそう!」

「あ、バレた?」

 2人でひとしきり笑った後、アヤが描いた絵を彼女はいたく気に入ったくれた。検査入院5日目の夜、胸が激しく痛み目が覚める……ナースコールに手を伸ばせず、胸を押さえて苦しむ私に彼女が気付き、看護師を呼んでくれた。


「ア、ヤちゃん、ありがと……う」
「アヤさん、アヤさん?」

 彼女の泣き顔、それがアヤの最後の記憶。

「この日、人生を終えたのね」

「はい。あなた様には普通の転生を、そして彼女には異世界転生という道ができておりました」

 普通の転生と異世界転生?

「私は取り返しの付かないミスを犯して、お2人の転生の道を間違えてしまったのです」

 アヤと、アヤちゃんの転生先を間違えた?

「乙女ゲームが何かも知らない……あなた様を異世界転生させてしまった。婚約者として幼な頃から仲良く過ごした、オルフレットの急激に変化した感情にあなた様は耐えきれなかった」

 オルフレットの感情? そう学園入学直後、オルフレット様は出会ったばかりの、メアリスさんと仲良くなっていった。学園の庭園で抱き合う2人の姿を見て、ロレッテに転生したアヤはショックを受けて倒れた。

 悲しくて、胸が裂けそうに苦しかった……

「乙女ゲームを知っていれば――幼少期、学園の入学後、なんらかの出来事で記憶を思い出します。学園に入学してからオルフレットがヒロインと仲良くなり、自分は悪役令嬢で婚約破棄されると、心構えが出来きるのです」

「婚約はい、心構え……」

「あの日、倒れたあなた様を見ていて、これでは最後の日まで持たず、あなた様の心は壊れてしまう……と、判断して、私は神にお願いをいたしまして。あなた様の心を少しでも軽減させるために、オルフレットの心を読めるスキルを新しく追加いたしました」

「オルフレット様の心を読むスキル?」

「はい。オルフレットの心が変わっても、あなた様の心が耐えれるよう、自動発動スキルでこうするしかなかった。他にも、あなた様には色んなスキルが付いているのですよ」

 ――私にスキル? なんの話かがわからない。

「ゲームをあまりしてこなかった、あなた様にはわからない話ですが……魔力と調合スキル。あのオルフレットが購入した図鑑はあなた様が購入する予定でした」

 オルフレット様ではなく、ロレッテが買うはずだった図鑑? だから、ページの余白部分に触れたとき文字が浮かんだのか。
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