嫌われ者で悪役令嬢の私ですが、殿下の心の声には愛されているみたいです。

7

 生徒がいるテラスではなく――王族しか入れない特別な庭園で、ロレッテはオルフレット殿下とお茶をしていた。

(……オルフレット殿下の心の声が、どうして聞こえるのかしら?)

 そう悩むロレッテの前で、オルレット殿下は優雅に紅茶がはいったポットを手にして。飲み干して、からになったティーカップ見つめるロレッテに聞いた。

「ロレッテ、紅茶をもう一杯飲むかい?」
「は、はい! いただきますわ」

「……ケーキはどう?」

 ご自身の手の付けていないケーキを、ロレッテにすすめた。それにロレッテは「いいえ」と首を横に振る。
 
「お気持ちは嬉しいのですが。これ以上はふくよかになってしまいますので、ケーキはご遠慮いたします」

「そう……」

〈ロレッテがふくよかだって? 折れそうな細い腰をしてるくせに、気にするロレッテも可愛らしい〉

「ロレッテ嬢、紅茶がはいったよ」
「ありがとうございます、オルフレット殿下」

〈――ああ、やはり落ち着く。ロレッテと過ごすひとときは、僕を癒す〉

 ――癒す?

「オルフレット殿下?」

 沈んだ殿下の心の声に反応して、声に出てしまい焦る。だけど、オルフレット殿下はロレッテがケーキが欲しいのだと、勘違いした。
 
「フフ。ロレッテ嬢はやはり、ケーキが欲しいんだね」

 やさしく微笑む殿下にロレッテは断れず、おずおず頷いた。その姿を見て、オルフレットはケーキ乗った皿をロレッテの前に置いた。

「……ありがとうございます」

〈ロレッテの頬が赤い、照れているのかな? ――か、か、可愛い!! ロレッテが可愛すぎる〉

(オルフレット殿下!)

 いきなり「可愛い!!」と荒れ狂うオルフレット殿下の心の声を、聞いて驚きと嬉しく思う自分がいた。

 その声が落ち着くと殿下は。

〈いまロレッテに伝えたい、メアリス嬢とはなんでもないと。あの日、話があると彼女に庭園へ呼び出され。いきなり目の前でつまずいた、彼女を助けただけなんだ……〉

(え? ……抱き合ったのではなく、転びそうなメアリスさんを助けた⁉︎)

〈それを見られた上に、ロレッテに誤解された。いや、全て僕が周りの声を鵜呑みにしたのもある。僕の未熟さが、ロレッテを傷付けてしまった〉

 殿下の痛々しく、悲しい声――でも、まだ疑う自分がいる。オルフレット殿下が、メアリスさんを抱きしめたのではないとしれて良かった。

「ケーキ、美味しいです」
「そうか、よかった」

〈笑った……笑ったロレッテは可愛い。いま、抱きしめたら怒るかな?〉

(⁉︎)

 凛々しい表情となかの声の違いに恥ずかしくて、ロレッテはオルフレット殿下が見れなくなってしまった。



 ❀

 

 心地よい風が吹く芝生の上を駆ける、ザッザッと誰かの足音が聞こえて、静かな庭園に似つかわしくない声が響く。
 
「あっ、いたいたオルフレット! 探したわよ、こんな所にいたのね」

 王族しか入れない特別な場所に許可もなく訪れた、その人物はおっとりとしたロレッテの瞳とは違う。ぱっちりした瞳と、後頭部で一つにまとめてたピンクの長い髪を揺らしていた。

「メアリス嬢?」

 そう、彼女はオルフレット殿下と学園の庭園で抱き合っていた……いいえ、つまずいたところを助けてもらった、男爵令嬢のメアリス・アーモンドだ。
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