世界の果てで、君との堕落恋愛。
今も忘れられない、お母さんのあの表情。

何かに耐えるように眉をしかめて、苦しげな表情をしていた。モデル活動を否定するのは、わたしを守るためだと言っていたけれど、一体どういう意味なのだろう。


「───…ちゃん、涼…涼香ちゃん!」

「…っは、はい! 何でしょう!?」


わたしの名前を呼ぶ声に、意識の外にいたわたしは現実に引き戻された。


「だからね〜、涼香ちゃんの新境地を開いてみないかって話! 今凄く人気な俳優さんがいるでしょ? そういう方との撮影は今よりもっと涼香ちゃんを成長させてくれると思うの。どう? やってみない?」

「え、えっと……はい?」

「まあ〜良かった! あの方と涼香ちゃんのツーショットを撮りたかった私としてはとっても嬉しいわあ」


綺麗に高い位置で束ねられた亜紀さんの黒髪ポニーテールが軽快に揺れる。


ま、待って……、わたしが今言ったの、承諾としての『はい』じゃなくて、何を言われているか分からなかったから聞き返した『はい』なんだけど……っ、!?


話が危険な方向に進んでいっている気がする。

亜紀さんがこんなにも乗り気なのに、今更そんなことを説明する勇気、わたしにはないよ……。


「あ! もうすぐでその“彼”が来るそうよ! 楽しみね〜♪」


スマホ片手に鼻歌を歌い出しそうな雰囲気の亜紀さんに、わたしは気づかれないほどの小さなため息を吐いた。

そして数分ほどその俳優さんとやらを待っていたわたし。
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