世界の果てで、君との堕落恋愛。
俳優さんと直接会うなんて経験が少ないわたしは、失礼のないように気合を入れた。


「よし……っ、やればできる!」


その時のわたしは、当然“あの人”以外の俳優さんが来るのだと思い込んでいて。


「───皆さん、こんにちは。何だか賑わっていますね」


遥か高みで下を見物しているような、そんな余裕のある重低音が聞こえたら、わたしは金縛りにあったみたく動けなくなった。


「本日は皆さんよろしくお願いいたします」

「菅生さん、何もそこまで改まらなくても……、こちらが無理言ってお願いさせていただいている身なので恐縮です。こちらこそよろしくお願いいたします!」

「はい。……ところで、お相手の方はどちらに?」

「あ、私が呼んで参りますね! 涼香ちゃ〜ん?」


ビクリ。

亜紀さんのその声で、ようやく体が動いた。

恐る恐る後ろを振り返る。


本当に、どうしてこの人は……


「刀利涼香ちゃん、で合ってる? 本日君と一緒に雑誌の表紙を飾らせていただく菅生玲衣です。よろしくね」


何度もわたしの目の前に現れるのだろう──。


長い脚を数歩動かして、わたしと亜紀さんの元までやって来た菅生さん。

モデルとしての刀利涼香が、あの地味子なのだと気づかれないといいけど……。実際、地味子の姿で2回会っちゃってるわけだし。
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