888字でコワイ話

第1話「青の夏祭り」

 






 近所の夏祭り。

 友達が急に来れなくなった。

  せっかく来たのにな。

 帰ろうかどうか迷っていると、迷子の子どもが一人で泣いていた。

 声をかけたら、あおを落としたって。

 青?

 スーパーボールとか、水風船のこと?

 それとも帽子や、ハンカチ?

 お父さんと、お母さんは?

 聞いても、一緒に探してって泣くだけ。

 困ったなぁ。

 祭りの運営本部に連れて行ったけど、その子が私の浴衣の裾を離さない。

 仕方ないなぁ。

 迎えが来るまで一緒に探してあげるよ。




 青、青、青ねぇ……。

 お面? 違う。

 メンコ? 違う。

 抽選会の福引券? 違うか。

 あっ、これ!

 なんだぁ、ラムネの瓶だ。

 落とした青をひたすら探して、稲荷神社の敷地を隅から隅まで歩いたけれど見つからない。

 途中お腹が空いちゃって、ふたりでイカ焼きとかき氷を食べた。

 思いもよらず、お祭りの雰囲気をちゃっかり味わっちゃった。

 なんだかんだ、この子のおかげかな。

 それはそうと、この子の親はまだなの?

 あ、流石にわたしもそろそろ帰らなきゃまずい時間だなぁ。

 本部に連れていくと、その子がまた裾を引っ張った。



「お姉さんの青ちょうだい」



 え、これのこと?

 今日の髪につけた青色のリボン。

 モダンな星モチーフの和柄がかわいくて、今日のために自分でて手縫いしたのだ。
 
 浴衣にも色合わせてして作った、ちょっと手の混んだリボンだ。

 ……まあ、いいか。

 また作ればいいんだし。

 その子のことは気になったけど、リボンを渡してわたしはお家に帰った。





 なんとなくあの子のことが気になって、翌日神社に行ってみた。

 片付けに精を出している運営本部の人に尋ねる。



「ああ、迷子の子。

 あの後どっか行っちゃってねえ。

 たぶん親か兄弟か自分で見つけて帰ったんだと思うよ」


 そっか、無事に帰れたんならいいけど……。

 それはそうと、あの子の探してた青は見つかったのかな。

 せっかくだし、あの子のためにお祈りしていこうか。

 鈴を鳴らして境内に手を合わせた。

 帰りがけ、はっとして振り向いた。





 忘れてた。

 ここのお稲荷さんは青い前掛けをしているんだ。

 全国でも青の前掛けをしているのは、ここだけなんだって。

 対になっているお稲荷さんの、片方の前掛け。

 あれは、わたしのあげたリボンだ。








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