888字でコワイ話

第2話「水えんぴつ」

 






 水えんぴつって知ってる?

 水の中でも字が書けるっていう。

 小学校の購買で15本の限定販売。

 朝から並んだのに……。



「本当に水中で書けるのかな? プール始まるの楽しみだな〜!」



 買えた人がうらやましい。

 どうしても欲しくてママに頼んだら、スマホで調べて近くの店で売っているみたいだと教えてくれた。

 あ、ここ通学路にあるお店だ。





 放課後、すこし緊張しながらお店に入った。

 眼鏡をした昔の映画に出てきそうな女の店員さんが商品を見せてくれた。



「水えんぴつはこの水眼鏡がないと使えないのよ」



 水色のえんぴつと、同じ色をした水中眼鏡。

 セットだったなんて……。



「お金これで足りますか?」



 店員さんは一日眼鏡を貸してあげるから、本当に必要だと思ったら明日お金を持ってきなさいと言ってくれた。

 えんぴつ代を払い、商品を受け取るとすぐに家に帰った。

 夜、水眼鏡をつけて、削った水えんぴつを握りしめる。

 息を止めて、ザブンと湯船に頭まで浸かった。

 その瞬間、目の前は、きれいな川の中。

 湯から顔を出すと、やっぱりうちのお風呂だ。



 な、なにこれ!?



 もう一度息を止めて湯に顔をつけると、見えるのはいつか旅行で行ったキラキラした夏の川そのものだった。



 す、すごい!



 眼鏡を付けていると、水の中をどこまでも泳いでいける。

 慣れたら不思議と息も苦しくない。

 川の中を楽しんでいたら、トントンと肩を叩かれた。

 振り向くとカッパがいた。

 カッパは手に紙を持っていて、そのえんぴつでここに名前を書けと言っているみたいだった。

 へえ〜、このために水えんぴつがあるのか。

 名前を書こうと手を伸ばした。

 その瞬間、僕の体は上にザバッと引き上げられた。





 気がつくと、ベッドの中にいた。



「溺れてたのよ、あんた! 

 二度とお風呂で遊んじゃだめ!」



 ママに言われて、ゾッとした。

 カッパの紙に書かれていた内容を、たった今思い出した。



 ーー水の住人になることをここに誓います。ーー



 名前を書いていたらどうなっていたんだろう。





 次の日、ママと一緒に水眼鏡を返しに行った。

 店員さんは静かに頷いただけ。

 僕も何も言わなかった。





 水えんぴつはどうしたかって?

 ここにある。

 君が水の住人になりたいなら、あげようか?
 

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