888字でコワイ話
第25話「ハーバルキラー」
「女の敵! お前なんか死ね!」
ドスッと背中に痛みが走り、僕は倒れた。
刺された場所がヤバい。
血の気が一気に引いていく。
なんでこんな事に……。
………
数日前、近所の銭湯に入った僕は眼鏡を置いて、いつものように自前のシャンプーを手に浴場に入った。
美容意識が高いというわけではなく、子供の頃から肌が弱くて、備え付けのシャンプーではカサカサになってしまうのだ。
軽く体を流し湯に浸かった後、いつもの様に鏡の前に座ってシャンプーを始めた。
そしてすぐに気づいた。
何だこれ!? めっちゃ良い匂いする!
シャンプーボトルをよく見たら、他人の物だった。
ボトルの色が似ていて間違えたのだ。
その時、隣に若い人が座った。
背格好はそう変わらないのに、顔面は僕の十倍くらいかっこいい。
「それ、俺の」
「すいません! 間違えて使ってしまって……」
「別にいいよ」
その人はさほど気に止めなかったので、僕はホッとした。
その後、良い香りに包まれながら僕は銭湯を出た。
心配したけど、品質が良いのか、頭皮の調子は普段より良いくらいだ。
「レン君、お待たせ!」
銭湯の出口でいきなり女性に腕を掴まれた。
驚いて振り向いた瞬間、女性の顔が歪む。
「げっ、誰!」
それこっちの台詞……!
人違いした女性は、そそくさと謝ると離れていった。
湯上がりに彼女と待ち合せか。
羨ましすぎる……。
僕には縁のない話だ。
でも、あのシャンプー。
本当に良さそうだ。
商品名を聞いておけばよかった。
それから間もなく、シャンプーをくれた人に再会し、また銭湯で隣になった。
「そのシャンプー、すごく良いですね。商品名教えてもらえませんか?」
「気に入ったならあげるよ」
「えっ、いいんですか!」
聞けば、男性は美容師で、仕事柄色んな種類を試すらしい。
ありがたくシャンプーをもらった。
おおう、やっぱりいい匂いだ!
もらったシャンプーで髪を洗い、男性にお礼を言って、銭湯を出た。
そして、僕は刺されたのだ。
………
気が遠くなりながらも女性の叫び声が聞こえる。
「なんで、レン君じゃないの……!?」
そういう事か……。
似てたのは見た目だけじゃなかったんだ。
あの人からもらったシャンプー。
その香りの せい で……