888字でコワイ話

第3話「かわいい あかちゃん」







若い夫婦にかわいい赤んぼうが生まれました。



白く柔らかなおくるみに包まれて、ふくふくと愛らしくとってもよく眠っています。



この子のためにぬいぐるみを買いましょう。



それはいいねと、ふたりは出かけました。



街で評判のぬいぐるみ屋さん。



くま、きりん、ぞう。


みつあみの女の子に、兵隊さん。


どれもこれもかわいくて、なかなか決められません。


赤んぼうそっくりな赤ちゃんのお人形まであります。


旦那さんがいいました。


ごらんよ、このお人形、うちの子にそっくりじゃないかい。


あなた、ちょっと抱いてみて、と奥さんがいいました。


旦那さんが赤ちゃんのお人形を抱きあげると、確かに赤んぼうと大きさから重さまでそっくり。


寝顔やほっぺの感じまでうりふたつでした。


これはなかなか出来のいい、かわいいお人形だよ。


君も抱いてごらんよ、と旦那さんがいいました。


奥さんは、赤んぼうをちょっとだけぬいぐるみの棚において、赤ちゃんのお人形を抱いてみました。


あらあら、ほんとう、まるでうちの子みたい。


ふたりは赤ちゃんのお人形がすっかり気に入ってしまいました。


奥に声をかけますと、愛想のいい店員さんやってきました。


ありがとうございます、奥様、旦那様。


これはまあ、なんと奥様にぴったりよく似合いますこと。


その口ぶりがあんまり気持ちよかったので、奥さんは赤ちゃんの人形を抱いて帰ることにしました。


まあまあ、なんてかわいいんでしょう。


すやすやとよく寝ているよ。


奥さんも旦那さんも、愛らしい赤ちゃんの人形に目を細めながら、大満足で帰っていきました。


そのあと、店員さんはぬいぐるみを元いた場所に戻して整頓をしました。


次のお客様が来たときに、気持ちよくお迎えするためです。


あらあら、ぬいぐるみの棚に赤ちゃんのお人形が。


店員さんは赤ちゃんのお人形を、ゆりかごの中に戻しました。


大きさも重さも顔もそっくりのお人形……。


いいえ、それは置いて行かれた夫婦の赤んぼうでした。


こんにちは、と次のお客様がやってきました。


いらっしゃいませ、今日はなにをお探しですか。


店員さんが愛想よく言いますと、お客様は指さしました。


あのゆりかごの、赤ちゃんのお人形を下さいな。


                                                    








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