888字でコワイ話
第9話「ランドセル いらない」
いや~な夢を見た。
巨大なランドセルがあって、まるで洞穴。
入ったら二度と出られないみたいな闇。
熱くも寒くもない、ざわざわした風。
あたし、絶対入りたくない!
「来週から1年生でしょ? しっかりしなきゃ」
ママにあたしの気持ちなんてわからないんだ。
こんなに嫌がってるのに、どうして行かせようとするの?
その夜、ランドセルでできたお城の夢を見た。
何千、何万それかもっとのランドセルが積み上がっている。
うす気味悪い空から、声が降ってきた。
「お前もランドセルを高く高く積み上げなければならないのだ」
そんなのやだ!
無理だよ!
入学式まであと1日。
昨日は背負ったランドセルがどんどん大きくなって押しつぶされる夢を見た。
あたしはランドセルにころされる。
ランドセルなんてなくなればいいのに。
そうだ、捨てちゃおう。
ううん、燃やちゃおう。
そうだ、燃やしてなくしちゃえばいいんだ!
ランドセルを庭の真ん中において、まわりに燃えそうなものを並べた。
火、火は……。
お家の中を見渡してみたけど見当たらない。
隣のおじさんに聞いてみようかな。
隣のお家の前まできたけど、どうしよう。
たぶん貸してくれない気がする。
その時、道の向こうから眼鏡をかけた女の人が歩いてきた。
あの人に聞いてみよう!
「それならそこの公園に持っていくといいわよ。
あなたと同じで、ランドセルを燃やそうとしている子がいたから、一緒にやったら?」
ほんと!
ランドセルのベルトを掴むと、近くの公園に急いだ。
公園の中央に4人の女の子たちがいた。
みんなそろって真新しいランドセルをしょっている。
知らない子たちだったけれど、勇気を出して話しかけた。
「あ、あたしも、仲間に入れてくれない……?」
「いいよ!」
「紫色のランドセルかわいい!」
「わたしたち一緒のクラスになれたらいいね!」
「ねえ名前なんて言うの?」
あれ……。
「明日お父さん来てくれるかなあ」
「ちょっと緊張しちゃう」
「入学式の服、何色?」
「友達できるかなあ」
みんなとバイバイしたあと、ランドセルをしょってお家に帰った。
その晩も夢を見た。
キラキラキラ!
戦うヒロインキャラクターのあたしたち。
5色のランドセルを背にポーズ!