888字でコワイ話

第10話「天才子役 まる」

　






「藤丸役の、まる君入りまーす」



　撮影所に入るとみんなが振りむく。

　ぼくも愛想を振りまく。

　子役も楽じゃないよ。

　ママの考えで生まれてすぐに芸能界入りした。

　ＣＭに映画、ドラマに、雑誌にＳＮＳ。

　場数はそれなりにつんでいる。

　正直言うと、こども扱いにはうんざり。





　撮影の合間、すごいものを見てしまった！

　敵役の俳優が、主役の俳優になにかを飲ませた。

　お茶に混ぜた白い粉。

　主役の俳優が倒れ、撮影は中断。

　ママや監督にすぐ言ったけど、案の定相手にしてもらえない。

　こうなったら、自分で証拠をつかんでやる！





　そっと近づいて様子をうかがう。

　大人はみんなぼくの前だと気をゆるす。

　敵役の俳優もぼくを抱き上げ膝の上に乗せた。

　確か、この辺に薬の入れ物をしまってたぞ。

　思い切って探ってみると、敵役の俳優がギクッとした。

　ほら、やっぱり！

　これだ！

　見つけたそれを素早く取ってぼくは駆け出した！

　敵役の俳優が追いかけてくる。

　けど、入り組んだ狭いスタジオの中はぼくに味方した。

　さっと大通具の影に身を潜めると、敵役の俳優はおろおろ。

　そのすきに抜け出し、ママの元へ駆けつけた。

　ママ、見てよ！　

　これが証拠だよ！

　それでもママは信じてくれない。

　そんな変なもの拾っちゃだめよ、だって。

　ママが証拠品を取り上げようとした。

　指紋がついたら、ママが犯人に疑われる！

　ぼくは急いで、入れ物を少しかじった。

　とたん、ぼくの体はビクビクと震え、目がギョロギョロ、口からは泡が出た。

　ママが叫び、監督やスタッフ、共演者たちも大騒ぎ。

　ぼくは救急搬送された。





　病院から無事帰宅したぼく。

　今はのんびりママとお休みだ。

　ママはさっきからワイドショーに釘付けだ。





「撮影現場で大胆な犯行。驚きましたね。

　大御所俳優が共演者に服毒させるという前代未聞の事件！　

　しかも証拠を見つけたのが、なんと大人気わんちゃん、まる君！

　見てください、カワイイですね〜」



　あっ、ぼくの代表作！

　ドリーマンペットフードのＣＭだ。

　あの撮影はたくさんおやつもらえて最高だったなあ。

　でも、この司会者ぼくのこと、今わんちゃんっていったな！

　わんちゃんじゃない！

　ぼくは天才子役！

　あのときの服毒の演技、この司会者に見せてやりたいよ！