あの一夜で身ごもりましたが、結婚はいたしません ~天才心臓外科医の猛攻愛~
憂鬱な朝――瀬七side

 「これで全部だな」

 家から持ってきた医療書を十冊ほど本棚に並べ終わり、腕時計を見る。

 午前七時半。術前のカンファレンスまで三十分ほど時間がある。

 資料や論文を整頓し、受け持っている患者のカルテを確認していたらちょうどいい時間になりそうだ。

 この霧島総合病院に赴任して、今日で一週間が経つ。

 霧島院長に用意してもらったこの個室も、こうやって少しずつ私物を持ち込んで、居心地よく整えられてきたように思う。

 デスクに腰を下ろし、持ち込んだコーヒーマシンで煎れたコーヒーを一口飲んで、カルテに視線を落とした。

 患者の状態を細かく確認しながら、自然と執刀していた状況が精細に蘇る。

 『私は……ひかりです。でも、西堂先生とは初めて会いました。すみません……本当に失礼します』

 彼女はああ言ったが、あのとき俺に器械だしをしていたのは、絶対にひかりだ。

 初めこそマスク姿で確信が持てなかったが、手術が進んでいくほどに、隣にいる安心感や、落ち着いた声、笑ったときに細まる瞳が過去の“ひかり”と重なった。

 極めつけは、完璧なまでの息の合い方。

 俺はバッグに入れていた太陽のネックレスを手に取り、光に照らしてみた。

 「また出会えるなんて、夢みたいだよ」

 彼女の緊張した様子やぎこちない表情から、俺に気づいているとは思う。

 だが、必要以上に関わり合いを持ちたくない様子だった。

 いったい俺は、彼女に何をしてしまったのだろう。
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