あの一夜で身ごもりましたが、結婚はいたしません ~天才心臓外科医の猛攻愛~
オペ室の昼下がり

 午前七時半。自転車のチャイルドシートに乗せて、栄斗を保育園に送り届ける。

 「ままー、いってらっしゃーい!」

 「ありがとう。栄斗も楽しんでね」

 「栄斗くん、他のお友達とお部屋に行こうか~」

 黄色の登園バックを下げたスモッグ姿の栄斗が、玄関にいた保育園の先生に手を引かれていく。

 けれどまた彼は振り返って、私がその場から出ていくまで手を振り続けようとしてくれていた。

 その笑顔は、どこか私に似ている。

 「お仕事頑張ってくるね」

 「うん!」

 離れがたい気持ちになるが、笑顔をひとつ残し、思い切って背中を向けた。

 今日は整形のオペだっけ……。少し急がないと。

 時計を確認し、大急ぎで自転車置き場にダッシュする。

 栄斗はとても優しい性格で、三歳にして周りの目を気にしているような気がする。

 仕事が忙しい私にも、滅多にわがままを言わない。

 もちろん子供らしい“あれがほしい”“あれが食べたい”など言ってくれるけれど、全然許容範囲内だ。

 特別に頭を悩まされたことがないのは、彼が年齢にして大人びているからだと思う。

 もっと私に甘えてほしいな。

 もっと栄斗の心の声が聞きたい、もっと彼と向き合う時間が欲しい。

 年月が過ぎていくほどにその気持ちは大きくなっているけれど、この状況でどうすればいいのか、と……少し頭が痛い。


 「今日はひかり先輩、お隣で手術ですね」
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