私の可愛い(?)執事くん
誘拐

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1月下旬。陽の受験も終わってゆっくりできる日。
「友達と遊ぶんじゃないの?」
「まだ全員が終わったわけじゃないので。」
なんて楽しい日になる予定だった。

誘拐された。
公園にいたキッチンカー。
陽に買ってきてもらっている間。
ベンチに座ってすぐ
口を塞がれ驚く間もなく
手足が縛られてトランクに転がされた。
「こんな簡単に攫えて楽勝でした」

声からして男の人。
その後に複数の笑い声が聞こえたから、
最低でも3人いる。

(この手際の良さ。
絶対に初犯じゃない。
こういう時こそ冷静でいないと)

リアガラスからは空と時折看板が
映るくらいでどこら辺かもわからない。

(まぁ、戻ってきてすぐ陽は
気づくだろうな。それまで耐えよう)

「すみません、思ったより混んでいて時間が」
ベンチに座っていると思ったがいなかった。
あれから15分。
スマホを確認しても連絡はなかった。
お嬢様と打って慌てて入力し直す。
「渚さん大丈夫ですか?」
送ってしばらく待っても既読がつかない。

「リーダー、陽です。実は」
事情を話して散策。
なにかあっても手がかりがあるかもしれない。

「ん?」
少し離れた駐車場になにか落ちていた。
近づくと一目でお嬢様の髪飾りだとわかった。

しゃがんで髪飾りを拾う。
「ここで、お嬢様が」
俺の背後に伸びる影。

傍に避けて振り返ると相手は男で
鉄パイプを持っていた。
「子供といえど源家に仕える執事ですよ。
髪飾りにつられてパイプ一本で倒せる
と思われたなんて心外です。」

もう一度降ってくる鉄パイプを片手で掴み、鳩尾
めがけて打つ。
「ゔっ、」
奪い取った鉄パイプをしゃがむ男の
鼻先スレスレで止める。
「吐け、お嬢様はどこだ」

「そんなこと言えるか」
(まだ渋るか)
今度は頭上で振りかぶる。

「わかった!わかったからやめてくれ!」
頭に直撃寸前で止める。
お嬢様の居場所を聞いてリーダーに連絡すると
1人こっちに向かわせてくれて後を任せた。

吐いた場所はいかにもな廃ビルだった。
執事のグループチャットに地図を載せてから
中に入って各部屋ずつ調べる。
(複数人いたら対応できるかな。
いや、やるんだ。
お嬢様を絶対に救出するんだ)

一階にはいない。
階段を登ると話し声。
(方向的に1番奥にある部屋か)

「陽!」
お嬢様は椅子に座って手足を縛られていた。
後ろを警戒しながらお嬢様のそばに行く。

「やっときたか、執事」
振り向くと男が5人。
出口を塞いでいた。

「源家の執事って粒揃いって聞くから
どんな奴かと思ったけどガキじゃん」
「見た目で人を判断しないでいただけます?」
気持ち悪い笑いに反吐がでる。

「でも、あいつを交わしてきたんだから
それなりには使えるやつなんだな」
男の1人は、護身用のナイフを取り出した。
折りたたみ式でロックを外して刃を出す。

とりあえず上着を脱いで
「お嬢様、しばらくお待ちください」
と膝にかける。
手、足、全てに警戒して攻撃を避ける。
お嬢様から遠ざけるように体を動かす。
でも、気づかなかった。
1人減っていたなんて。

「ひっ、」
小さな悲鳴に振り返ると首に刃を当てられていた。
「おじょ」
顔を殴られて転がる。
「陽!」

「だ、大丈夫です」
「この女を殺されたくなければ抵抗するな」
男の手は微かに震えている。
(多分脅しだけど、お嬢様が傷つけられないとも
言い切れない)

「わかりました」
膝立ちをして両手を上げる。
男たちは容赦なく殴る、蹴る。
(15の子供に恥ずかしくないのか)
でも幸いなことに顔は殴られなかった。

頭を踏まれる。
「汚い足で踏まないでくれます?」
「虫ケラがなんか言ってるー!」
笑いながら本気で踏みつけるように足を高く上げる。

その先に避けたが今度は仲間に取り押されられた。
「虫が這いつくばってやんの」
再び高く上げられた足に目を瞑る。

「だいじょ〜ぶ?陽」
「か、薫さん!?」
「薫!!」
思い切りむせてしまった。

俺と男の間に入って足を片手で止めていた。
「うるせぇ、こいつが、」
言い終わる前に俺を抑えていた1人を蹴り飛ばす。
それに怯んで手を離して距離を取る男たち。
「俺の先輩と俺たちのお嬢様に何してんの?」
にっこりとしているが目が笑っていない。

「陽、動ける〜?」
「は、はい」
「なら、お嬢様を連れて外にいっといて。
大丈夫、僕だけで充分だから〜」
「わかりました」

床に落ちていたナイフで、紐を切り
外に向かう。
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