私の可愛い(?)執事くん
バレンタイン

2月、
無事に陽の合格発表が届いた。
「おめでとう」
「ありがとうございます、お嬢様」

「ようやく肩の荷が下りました。」
みんなに祝福の言葉を言われて陽も嬉しそう。

合格発表で忘れていたけど世間はバレンタイン一色。
スーパーやショッピングモールもこの時期は
製菓コーナーも充実している。
様々な模様のラッピング袋やボックスも並んでいて、
女の子たちが悩んでいるのをよく見かける。

(私も今年は手作りにしてみようかな)
「もちろんです、一緒に頑張りましょう」
司に手伝って欲しいとお願いすると笑顔で
了承してくれた。

「バレンタインに贈るものには意味があるのを
知っていますか?」
「意味?」
「クッキーは友達、キャラメルはあなたといると
落ち着く、など。もちろん相手の好みなどは
気をつけないといけませんけど」
「そうなんだ」
あとで調べてみよう。

みんなにはガトーショコラにしようかな。
たくさんできるし。
陽、薫には特にお世話になってるしもう一つ
あげたいな。
(いや、でもそれって差別になる?
みんなお世話になってるのは変わらないし。
・・・こっそり渡そう)

ショッピングモールに着くと
製菓材料、包装材がたくさん置いてある。
「何を作るか決まっていますか?」
「ガトーショコラは決まってる。
あと響にはキャラメル。
薫、陽にはもう一つ別であげたいって
思ってるんだけどダメ、かな」

「どうしてダメだと思うんですか?」
心底不思議そうな顔。
「だって、なんか差をつけてるみたいじゃない。
使用人のみんなはよく働いてくれてる。
なのに2人だけもう一つだなんて」

「そんな事ありませんよ。
そう考えてくれるって事は俺たちのことを想ってくれている事です。
陽と薫。
陽はずっとそばにいる。薫は同じ学校に通っている。特別に感じるのは当たり前だと思いますけど」
「そう、かな」
「そうですよ」

「それに俺含め使用人たちは差をつけられた、
なんて思いませんよ。安心して、信じてください。
俺たちを」
「うん、ありがとう、司」

「もう一つの方は何を考えているんですか?」
「マドレーヌとマカロン」
行った瞬間、司の笑顔がひきつる。
「マカロン、ですか?」
「うん、難しい?」
「とても難しいですよ。材料は少ないですけど、
かなり技量が求められるお菓子です。
俺が作る時、今でもオーブンの前で祈っています」
「そ、そんなに」
「間に合わなかった時のために既製品も
買っておきますか。」
「うん」
材料と既製品をいくつか買って帰宅。

次の日、朝から司とキッチンに立つ。
「では始めましょうか」
「よろしくお願いします」
計量、なにを常温にするか、作るコツなど
アドバイスをもらいながら作り、オーブンで焼く。

焼いている間に洗い物。
「手際良かったですね」
「ありがとう、司の教え方が上手いからだよ」
「嬉しいことを言ってくれますね」
ニカッと笑って頭をポンポンと叩く。

「いつでも頼ってください」
「うん」

洗い終わっておしゃべりすると、オーブンから
音が鳴る。
開けた瞬間に甘い香り。

取り出すと綺麗に焼き色。
串をさしてしっかり火が通っていることを確認。
「上出来ですよ、お嬢様」

キャラメルもマドレーヌもうまくできた。
でもマカロンはダメだった。
膨らまずひび割れてしまった。

「また時間があるときに挑戦しましょう」
「うん」
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