黒を以て白を制す
「やーほー、伊那さ~ん」
仲良くやっていた私たちの仲に割り込むように、萌が語尾にハートマークを飛ばしながらコチラへ突撃してきた。グロスを塗りまくって艶々な、頬を紅潮させた色気たっぷりな顔で刺客のように。
「私とも話してくださいよぉ〜」
酔ってるんだが何だか知らないが、私とは反対側の隣に座ってピタッと伊那君にくっつき出す。肩にしなだれかかって腕まで絡ませて、傍から見ればもはや彼女だ。絡まれた伊那君はちょっと困った顔で腕を解いているが萌は一向にヤメようとしない。嫉妬に悶えてしまいそう。
「おーし。いいぞ!いけ、萌!」
「ぶっ潰せ!」
悪口シスターズが萌を見て、野球観戦中に野次る親父たちみたいにキャーキャーと盛り上がる。おいおい、私はダメで萌は良しなのか。何じゃそりゃ。彼女たちの考えはよく分からん。
「安久谷さ〜ん。お醤油取って」
萌と伊那君の様子に苦笑いをしてた私の肩を社員Bさんがトントンと叩く。大分、酔っているのかいつもよりテンションが高い。私の腕をツンツンと突っつきながら「お願い~」と何度も猫なで声で頼んでくる。
「あ、はい。どうぞ」
「ありがと」
頼まれた通り普通にお醤油を渡したが、焼魚が浸るくらい掛けてて笑えない。お皿の中が黒い海と化してる。しかも本人は気付いていないのか、醤油まみれになった暗黒魚を平気な顔で食べてる。飲み過ぎた所為で味覚が鈍った?もしくは元からか。
まぁ、どっちにしたって部長に散々飲まされたのは確かだ。飲ませた当人の部長も完全に出来上がってるらしく、頭にネクタイを巻きながら今城さんと一緒にゲラゲラ笑ってる。
相手をしている今城さんはちょっと疲れた顔で話してるが、部長が離してくれないみたいだ。助けを求めるように私にチラチラと視線を送ってきた。
「部長、人生を成功させるために必要なこととは?」
「うむ。過去にやらかした失敗をいかに成功させるための道具として利用出来るかである」
助け船を出すために人生について聞くと部長は嬉しそうに話を始めた。部長の酔った時の十八番だ。返事をしなくてもずっと語り続けてる。