黒を以て白を制す
「良かった。帰れる。嫁にキレられなくて済む」
データがあると判明して部長も心の底から安心したらしい。画面を見ながら「はぁー」と長すぎるくらい大きな安堵の息を吐いてる。まぁ、部長の場合は別の安堵も入っていそうだが。
それにしても本当にデータがあって良かった。残してくれていた伊那君に感謝だ。
「後は僕と安久谷さんでやっておきますよ」
「いいのか?」
「はい。今日は特に予定もありませんし。どうせ帰ったって暇するだけなんで」
「そうか。なら頼む。安久谷さんもそれが終わったら帰っていいから」
「はい。ありがとうございます」
「お疲れ様でした」
ペコリと頭を下げると部長は「お疲れ様」と手をヒラヒラと振ってご機嫌な顔で帰っていった。他の社員もいつの間にか帰ったらしい。当事者であるはずの萌の姿も見当たらない。残っているのは私と伊那君だけだ。
「伊那君、ごめんね。助かったよ」
「なんのなんの~。困ったときはお互い様でしょ」
「うん。ありがとう」
資料を纏めつつお礼を言うと伊那君は振り返ってニッコリと微笑んだ。
笑顔が眩しい。草原とか晴天とか青い海とか、そんな清々しい言葉が似合う爽やかさだ。
ほんと無敵。人当たりも良いし、仕事も出来るし、性格も明るいし、伊那君はTHE正統派って感じ。
私が黒なら伊那君は白。真っ白。誰とでも綺麗に混ざっていける。濁すこともない、どす黒くもならない、描き出す絵はどの色と合わさっても優しくて暖かい色だ。相手が私でさえも。