推しのためなら惜しけくも~壁打ち喪女最推しの特撮俳優は親友の息子で私に迫ってきます
26 ゴシップ
週刊誌に天海ソウの疑惑が報じられた。
さくらと熱愛! や局内で腕を掴んでいる現場を週刊誌にスクープされたのだ。
「申し訳ありません」
蒼真の謝罪先はマークシープロダクション社長の如月遙花だ。
ゴシップ記事などガントレットストライカーにあるまじき失態だ。
「しつこいわねえ。あの子も。それぐらいじゃなきゃトップアイドルにはなれないか」
溜息をつく。さくら対策は万全を期していたはずだ。
すぐさまテレビ局にクレームを入れてマスコミ向けに通達文を流す。スクープ写真は局内の撮影だからだ。
「誰かしら。いい度胸ね。マネージャーかしら。いいえ。これはきっとADか小道具系の人間ね。マネージャーにこんな写真を撮影させるにはリスクが高すぎるもの。使い捨てのスタッフによる仕業かな」
「使い捨てって」
「あなたと大宮さくらの接点はあの番組だけ。そしてこれは局内の写真。誰の仕業かだなんてすぐに特定できるわ。TV局なんて監視カメラだらけだから」
「それはそうですが……」
「みてごらんなさい。あなたの顔。無表情で無関心。これで恋人といっても信用しないし、おそらく記事を書いた記者もそう思っているはず」
「ではなぜ!」
「人気特撮俳優とトップアイドル。集客力が高い組み合わせね。サイトのインプレも稼げるしいいお金になるでしょう」
冷たく言い放つ遙花。当然先方の事務所にもクレームは入れてある。
「その……俺に怒らないんですか?」
どんな形であれ、ゴシップ記事にされてしまったことは失態だ。挨拶して強引にでも振り払うべきだった。
「あなたが更紗さん一筋だなんて私が一番よく知っているわ蒼真君」
あえて芸名の天海ソウではなく、蒼真と呼ぶ遙花。
「冷静な対処よ。よく我慢したわね。あなたが怒って強引に大宮さくらの手を振り払ったなら、記者は痴情のもつれとして書き殴ったでしょうね?」
「そこまで……」
自分の考えを遙花に読まれて、甘さを思い知る蒼真。
「芸能記者ならやるわ。火のない所に付け火するのが大好きな人たちですもの」
蒼真は改めて芸能界の恐ろしさを身に染みて思い知った。いかに守られていたかということも。
「今までの経験で言えば、大宮さくらの自爆ね。あなたのファンが抱く敵意はさくらに向くわ。もちろんあなたも多少は覚悟しておいてね」
「はい」
「大宮さくらのファンはおそらく興味がない。推しが恋愛したぐらいで泡を吹くような男のドルオタは十年以上前に壊滅状態よ」
遙花はどこまでも辛辣だった。
「番組への影響が心配です」
「多少は影響あるでしょう。スクープするならせめて繁華街で撮れってこと。まったく」
「こんなことをして彼女にどんなメリットがあるかわかりません」
「さあ? そんなことは彼女以外誰にもわからないわ。振り向かない天海ソウにむかついただけかもしれないし、手に入らないなら壊してしまえと思ったのかもしれない。炎上商法の一種かもしれない。あなたと更紗さんを不安にさせることかもしれない。私は単に、思いつきで行動しただけだと予想しているけど」
「そんなことで?」
「そんなもの。トップアイドルが、だなんて思わないこと。トップアイドルだからこそ手に入らないものに執着するのかもしれないわね」
「よくわかりません」
「理解する必要もないわ。それはガントレットストライカーに不要なもの。第一ね。局内の管理責任が問われる重大案件よ。私も手が打てるわ」
「どんな手を打つのですか?」
「共演NG」
その言葉は重く、辛辣なものだった。
「スポンサーも含めて通達するの。事実無根ですってね。だから今後天海ソウと大宮さくらは共演NG。局内でのスクープ写真だもの。他のテレビ局にも有効よ。だって自社局内で同じことが起きる恐れがあるってことなんだから」
遙花はスポンサーにも直接説明に回るつもりだ。ガントレットストライカーの看板はそれほど重いのだ。
大手エンターテイメントグループや自動車会社、事務用品関係。スポンサーの規模には関係なく、アポは取り付けてある。
「余計恨みを買いませんか」
「どっちにしろ恨みを買っているもの。ならせめて表舞台での接点をすべて根絶やしにするだけ。――更紗さんが心配なのね」
「はい」
渋面を隠しきれない蒼真。
(あらやだ。この子にこんな顔をさせるなんて。覚えておきなさい大宮さくら)
内心はおくびにも出さず、話を続ける。
「黒井サラはマークシープロダクションの女優よ。社長である私が守る」
「ありがとうございます」
「感謝は不要よ。あなたはよりガントレットストライカー紫雷に専念して」
「もちろんです」
深々と頭を下げる蒼真。演技で汚名をそそぐしかない。
蒼真がでていった社長室の扉を冷たい目で見詰める遙花。その視線の先にある姿は、大宮さくら。
「これからが本番よ」
モニタに映るスケジュールを確認しながら冷たく言い放つ遙花だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
更紗は蒼真からの電話に飛び付いた。
「更紗?」
「蒼真さん大変だったね」
週刊誌のゴシップ記事だ。モノクロでも蒼真の表情を見ればかなり嫌がっていることは見て取れる。
「誤解されずに済んで良かった」
「そんなこと疑わないよ。番組中だって特撮の話があざとくてイラっときたし!」
「それな」
大宮さくらが最近ハマっているものと聞かれて特撮と答えたことだ。
昔から男受けする趣味をアピールするアイドルはいた。もちろん本物のオタもいたが、多くは付け焼き刃が見え透いているのでファンの岩盤層にはなりにくい。それよりも大きなファン層を獲得しないとどのみちアイドルとしては長くない。
「私はさくらさんのことで不安になったりしないから安心して」
「わかった。次の撮影を楽しみにしている」
「うん。がんばろうね」
一通り話し終えて電話を切る更紗。
さくらのことで更紗は不安になったりはしない。
本当の不安は――
さくらと熱愛! や局内で腕を掴んでいる現場を週刊誌にスクープされたのだ。
「申し訳ありません」
蒼真の謝罪先はマークシープロダクション社長の如月遙花だ。
ゴシップ記事などガントレットストライカーにあるまじき失態だ。
「しつこいわねえ。あの子も。それぐらいじゃなきゃトップアイドルにはなれないか」
溜息をつく。さくら対策は万全を期していたはずだ。
すぐさまテレビ局にクレームを入れてマスコミ向けに通達文を流す。スクープ写真は局内の撮影だからだ。
「誰かしら。いい度胸ね。マネージャーかしら。いいえ。これはきっとADか小道具系の人間ね。マネージャーにこんな写真を撮影させるにはリスクが高すぎるもの。使い捨てのスタッフによる仕業かな」
「使い捨てって」
「あなたと大宮さくらの接点はあの番組だけ。そしてこれは局内の写真。誰の仕業かだなんてすぐに特定できるわ。TV局なんて監視カメラだらけだから」
「それはそうですが……」
「みてごらんなさい。あなたの顔。無表情で無関心。これで恋人といっても信用しないし、おそらく記事を書いた記者もそう思っているはず」
「ではなぜ!」
「人気特撮俳優とトップアイドル。集客力が高い組み合わせね。サイトのインプレも稼げるしいいお金になるでしょう」
冷たく言い放つ遙花。当然先方の事務所にもクレームは入れてある。
「その……俺に怒らないんですか?」
どんな形であれ、ゴシップ記事にされてしまったことは失態だ。挨拶して強引にでも振り払うべきだった。
「あなたが更紗さん一筋だなんて私が一番よく知っているわ蒼真君」
あえて芸名の天海ソウではなく、蒼真と呼ぶ遙花。
「冷静な対処よ。よく我慢したわね。あなたが怒って強引に大宮さくらの手を振り払ったなら、記者は痴情のもつれとして書き殴ったでしょうね?」
「そこまで……」
自分の考えを遙花に読まれて、甘さを思い知る蒼真。
「芸能記者ならやるわ。火のない所に付け火するのが大好きな人たちですもの」
蒼真は改めて芸能界の恐ろしさを身に染みて思い知った。いかに守られていたかということも。
「今までの経験で言えば、大宮さくらの自爆ね。あなたのファンが抱く敵意はさくらに向くわ。もちろんあなたも多少は覚悟しておいてね」
「はい」
「大宮さくらのファンはおそらく興味がない。推しが恋愛したぐらいで泡を吹くような男のドルオタは十年以上前に壊滅状態よ」
遙花はどこまでも辛辣だった。
「番組への影響が心配です」
「多少は影響あるでしょう。スクープするならせめて繁華街で撮れってこと。まったく」
「こんなことをして彼女にどんなメリットがあるかわかりません」
「さあ? そんなことは彼女以外誰にもわからないわ。振り向かない天海ソウにむかついただけかもしれないし、手に入らないなら壊してしまえと思ったのかもしれない。炎上商法の一種かもしれない。あなたと更紗さんを不安にさせることかもしれない。私は単に、思いつきで行動しただけだと予想しているけど」
「そんなことで?」
「そんなもの。トップアイドルが、だなんて思わないこと。トップアイドルだからこそ手に入らないものに執着するのかもしれないわね」
「よくわかりません」
「理解する必要もないわ。それはガントレットストライカーに不要なもの。第一ね。局内の管理責任が問われる重大案件よ。私も手が打てるわ」
「どんな手を打つのですか?」
「共演NG」
その言葉は重く、辛辣なものだった。
「スポンサーも含めて通達するの。事実無根ですってね。だから今後天海ソウと大宮さくらは共演NG。局内でのスクープ写真だもの。他のテレビ局にも有効よ。だって自社局内で同じことが起きる恐れがあるってことなんだから」
遙花はスポンサーにも直接説明に回るつもりだ。ガントレットストライカーの看板はそれほど重いのだ。
大手エンターテイメントグループや自動車会社、事務用品関係。スポンサーの規模には関係なく、アポは取り付けてある。
「余計恨みを買いませんか」
「どっちにしろ恨みを買っているもの。ならせめて表舞台での接点をすべて根絶やしにするだけ。――更紗さんが心配なのね」
「はい」
渋面を隠しきれない蒼真。
(あらやだ。この子にこんな顔をさせるなんて。覚えておきなさい大宮さくら)
内心はおくびにも出さず、話を続ける。
「黒井サラはマークシープロダクションの女優よ。社長である私が守る」
「ありがとうございます」
「感謝は不要よ。あなたはよりガントレットストライカー紫雷に専念して」
「もちろんです」
深々と頭を下げる蒼真。演技で汚名をそそぐしかない。
蒼真がでていった社長室の扉を冷たい目で見詰める遙花。その視線の先にある姿は、大宮さくら。
「これからが本番よ」
モニタに映るスケジュールを確認しながら冷たく言い放つ遙花だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
更紗は蒼真からの電話に飛び付いた。
「更紗?」
「蒼真さん大変だったね」
週刊誌のゴシップ記事だ。モノクロでも蒼真の表情を見ればかなり嫌がっていることは見て取れる。
「誤解されずに済んで良かった」
「そんなこと疑わないよ。番組中だって特撮の話があざとくてイラっときたし!」
「それな」
大宮さくらが最近ハマっているものと聞かれて特撮と答えたことだ。
昔から男受けする趣味をアピールするアイドルはいた。もちろん本物のオタもいたが、多くは付け焼き刃が見え透いているのでファンの岩盤層にはなりにくい。それよりも大きなファン層を獲得しないとどのみちアイドルとしては長くない。
「私はさくらさんのことで不安になったりしないから安心して」
「わかった。次の撮影を楽しみにしている」
「うん。がんばろうね」
一通り話し終えて電話を切る更紗。
さくらのことで更紗は不安になったりはしない。
本当の不安は――