推しのためなら惜しけくも~壁打ち喪女最推しの特撮俳優は親友の息子で私に迫ってきます
27 本当のライバル
撮影で忙しい蒼真よりも先に如月遙花から電話があったのだ。
今回の件のあらましや、対処方法もだ。
「大丈夫よ。更紗さん。大谷さくらが勝手に暴走しているだけだから」
「はい。わかっています」
心斎橋の件や楽屋での出来事を思い出す更紗。
「それにね。あなたの本当のライバルは、あなた自身もわかっているでしょう?」
「え? 私のライバルですか?」
「そう。今のあなたのライバル。それは一〇年前の自分。更紗おねーちゃんですよね」
「……はい」
芸能事務所の社長は人の心まで読み取れるのだろうか、と思う更紗。
更紗の葛藤を言い当てた。
「十年前の自分はまだ学生で。社会のことも何もしらなくて。だからこそ当時の蒼真君と同じ目線でいられたと思うんです。でもそれは彼に若い頃の私を印象付けてしまった。いつ幻滅されるか、不安で仕方がないんです」
「あの子はまだ、自分の言っていることの残酷さに気付いていない。あなたはよくやっているわ更紗さん」
「ありがとうございます」
(残酷、か。そうだよね。悪気は絶対ないんだけれど。やっぱり年齢は不安にさせる)
「それにね。安心していいわ。今のあなた、黒井サラは更紗おねーちゃんに負けてなんかいないんだから。自信をもって。って持ちにくいか」
「はい。自信をもてといわれても、不安で」
もとより自己肯定感が低い更紗に対して自信をもてといわれても根拠もないのだ。
「黒井サラならどう? どんな形であれ、あの子と同じステージに立った。言葉通りのね。そんな人、そういないわ」
「でもそれも、皆さんの助力があってこそで」
「違います。あなたに何の魅力も無ければ私も含めて皆さんは助力しません。芸能界はそんな甘いところではないんですよ」
言葉はきついが、口調は穏やかだ。
「私に……」
「若いだけの更紗おねーちゃんには無理です。加齢は等しく平等であり、どう生きるかも大事です。天海ソウと再会したあなたの交流、人柄、魅力。一つではありませんよ。脚本家へのアピールも良かったですね。これはあなたの実績であり、武器です」
「武器ですか」
「ええ。大宮さくらなんて目ではありません。それどころか、更紗おねーちゃんに勝てる武器です。それを卑下することは私ではなくて天海ソウが許しませんよ」
「……ありがとうございます」
昔の自分に勝てる武器。
気休めなのかもしれないが、遙花の言葉には力があった。
「天海ソウと蒼真さんを信じます。そして黒井サラも」
「よろしい。期待していますよ。黒井サラ」
二人は電話を終えた。
(昔の自分に勝てる……? 今の私が? でも黒井サラはガントレットストライカーの女優で、確かに昔の私では無理だったと)
枕に顔をうずめて考える更紗。
(芸能事務所社長って凄いんだな。こんな私でも、まだ頑張れそう)
そう思って思わず笑ってしまう更紗だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
如月遙花は山手線で東品川に向かった。
大口スポンサーへ今回のあらましを説明するタメだ。
事前に資料を作って配布できるようにしてある。セキュリティが硬いため、部外者では上層部に添付ファイルは届かない。
厳重なセキュリティは世界に誇るエンターテインメント企業だと実感させるものがあった。
IPを統括する部署の担当者と、玩具や模型を統括する役員など錚々たる面々が参加している。
「資料を見る限り、天海ソウ君と大宮さくらさんはほぼ接点がない。そういうことで間違いないのですね」
「当事務所からテレビ局へは共演NGの通達も出しております」
「そこまでするかね。双方のキャリアに傷がつくから避けるようなものだが……」
「事実無根。しかもTV局内のスクープ。加えて、写真からもわかるように天海ソウはむしろ大宮さくらさんを苦手としています」
「そうだな。恋人に向ける視線ではないね」
別の役員も記事の写真をみて納得したようだ。
「それでもこれは天海ソウに絡む不手際。心よりお詫びもうしあげます」
「災難だったことはわかるが、売上がね。今まで好調だった分、急停止する恐れもある」
実際には些細なトラブルなので、そこまでの売上は響くことはないと思うが1%でも莫大な金額になりかねない。玩具流通は非情にシビアな世界だ。役員は遙花に知ってもらいたかったのだ。
「そこで天海ソウからのご提案なのですが、積極的に玩具のCM、イベントに参加させていただけないかということです。スケジュールの都合さえあえば、駆けつけると」
スポンサーたちが視線を走らせる。そこまでしてくれる俳優はなかなかいない。
「イベントは大歓迎だな。て子供たちとのふれあいイベントやアミューズメント系のイベントになるが、それでもいいのかい?」
「構いません。天海ソウは歴代のガントレットストライカーオタクでもあり、恩人から受けた『ガントレットストライカーは子供たちのためにある』という言葉を大切にしています」
「嬉しいことをいってくれる恩人だね」
「母親の友人とのことです。その方がガントレットをプレゼントしたことが彼の原動力なのですよ。ガントレットストライカーシリーズの熱心でして。奇縁で今は私の事務所に所属する女優です」
「本当かい? 母親の友人ってことも驚きだが女優もしているのか」
「本当です。ここだけの話、天海ソウの初恋ですね。あの子が大宮さくらさんと無関係と断言できるのはこのことからもいえます」
「これはまた甘酸っぱい話だな。アイドルと特撮オタクでは話が合うわけないだろうな。事実無根という何よりの証拠だ。その女性とソウ君はどうなんだね?」
「女優は兵庫在住でそう簡単に会えません。それに……先ほども申し上げました通り、母親の同級生になりまして34歳です。年の差もありまして簡単には上手くいかないでしょうね」
「17歳と34歳か。もちろん天海ソウ君がガントレットストライカーを愛してくれていることに疑ったことはないですよ」
「はい。彼の熱意は本物です」
役員の言葉に特撮IP担当者も同意する。
「そしてその女優が次の映画でダークウィドウ役を担当します。監督と脚本の方が気に入ってくださいまして」
「次の映画か! はは。それはいいですね。どうせスキャンダルならガントレットストライカー内部で成立して欲しいものだ」
「取締役。その発言は……」
取締役の言葉に慌てる担当者。コンプラにおいても年の差関係は問題になりやすいのだ。
今回の件のあらましや、対処方法もだ。
「大丈夫よ。更紗さん。大谷さくらが勝手に暴走しているだけだから」
「はい。わかっています」
心斎橋の件や楽屋での出来事を思い出す更紗。
「それにね。あなたの本当のライバルは、あなた自身もわかっているでしょう?」
「え? 私のライバルですか?」
「そう。今のあなたのライバル。それは一〇年前の自分。更紗おねーちゃんですよね」
「……はい」
芸能事務所の社長は人の心まで読み取れるのだろうか、と思う更紗。
更紗の葛藤を言い当てた。
「十年前の自分はまだ学生で。社会のことも何もしらなくて。だからこそ当時の蒼真君と同じ目線でいられたと思うんです。でもそれは彼に若い頃の私を印象付けてしまった。いつ幻滅されるか、不安で仕方がないんです」
「あの子はまだ、自分の言っていることの残酷さに気付いていない。あなたはよくやっているわ更紗さん」
「ありがとうございます」
(残酷、か。そうだよね。悪気は絶対ないんだけれど。やっぱり年齢は不安にさせる)
「それにね。安心していいわ。今のあなた、黒井サラは更紗おねーちゃんに負けてなんかいないんだから。自信をもって。って持ちにくいか」
「はい。自信をもてといわれても、不安で」
もとより自己肯定感が低い更紗に対して自信をもてといわれても根拠もないのだ。
「黒井サラならどう? どんな形であれ、あの子と同じステージに立った。言葉通りのね。そんな人、そういないわ」
「でもそれも、皆さんの助力があってこそで」
「違います。あなたに何の魅力も無ければ私も含めて皆さんは助力しません。芸能界はそんな甘いところではないんですよ」
言葉はきついが、口調は穏やかだ。
「私に……」
「若いだけの更紗おねーちゃんには無理です。加齢は等しく平等であり、どう生きるかも大事です。天海ソウと再会したあなたの交流、人柄、魅力。一つではありませんよ。脚本家へのアピールも良かったですね。これはあなたの実績であり、武器です」
「武器ですか」
「ええ。大宮さくらなんて目ではありません。それどころか、更紗おねーちゃんに勝てる武器です。それを卑下することは私ではなくて天海ソウが許しませんよ」
「……ありがとうございます」
昔の自分に勝てる武器。
気休めなのかもしれないが、遙花の言葉には力があった。
「天海ソウと蒼真さんを信じます。そして黒井サラも」
「よろしい。期待していますよ。黒井サラ」
二人は電話を終えた。
(昔の自分に勝てる……? 今の私が? でも黒井サラはガントレットストライカーの女優で、確かに昔の私では無理だったと)
枕に顔をうずめて考える更紗。
(芸能事務所社長って凄いんだな。こんな私でも、まだ頑張れそう)
そう思って思わず笑ってしまう更紗だった。
◆ ◆ ◆ ◆ ◆
如月遙花は山手線で東品川に向かった。
大口スポンサーへ今回のあらましを説明するタメだ。
事前に資料を作って配布できるようにしてある。セキュリティが硬いため、部外者では上層部に添付ファイルは届かない。
厳重なセキュリティは世界に誇るエンターテインメント企業だと実感させるものがあった。
IPを統括する部署の担当者と、玩具や模型を統括する役員など錚々たる面々が参加している。
「資料を見る限り、天海ソウ君と大宮さくらさんはほぼ接点がない。そういうことで間違いないのですね」
「当事務所からテレビ局へは共演NGの通達も出しております」
「そこまでするかね。双方のキャリアに傷がつくから避けるようなものだが……」
「事実無根。しかもTV局内のスクープ。加えて、写真からもわかるように天海ソウはむしろ大宮さくらさんを苦手としています」
「そうだな。恋人に向ける視線ではないね」
別の役員も記事の写真をみて納得したようだ。
「それでもこれは天海ソウに絡む不手際。心よりお詫びもうしあげます」
「災難だったことはわかるが、売上がね。今まで好調だった分、急停止する恐れもある」
実際には些細なトラブルなので、そこまでの売上は響くことはないと思うが1%でも莫大な金額になりかねない。玩具流通は非情にシビアな世界だ。役員は遙花に知ってもらいたかったのだ。
「そこで天海ソウからのご提案なのですが、積極的に玩具のCM、イベントに参加させていただけないかということです。スケジュールの都合さえあえば、駆けつけると」
スポンサーたちが視線を走らせる。そこまでしてくれる俳優はなかなかいない。
「イベントは大歓迎だな。て子供たちとのふれあいイベントやアミューズメント系のイベントになるが、それでもいいのかい?」
「構いません。天海ソウは歴代のガントレットストライカーオタクでもあり、恩人から受けた『ガントレットストライカーは子供たちのためにある』という言葉を大切にしています」
「嬉しいことをいってくれる恩人だね」
「母親の友人とのことです。その方がガントレットをプレゼントしたことが彼の原動力なのですよ。ガントレットストライカーシリーズの熱心でして。奇縁で今は私の事務所に所属する女優です」
「本当かい? 母親の友人ってことも驚きだが女優もしているのか」
「本当です。ここだけの話、天海ソウの初恋ですね。あの子が大宮さくらさんと無関係と断言できるのはこのことからもいえます」
「これはまた甘酸っぱい話だな。アイドルと特撮オタクでは話が合うわけないだろうな。事実無根という何よりの証拠だ。その女性とソウ君はどうなんだね?」
「女優は兵庫在住でそう簡単に会えません。それに……先ほども申し上げました通り、母親の同級生になりまして34歳です。年の差もありまして簡単には上手くいかないでしょうね」
「17歳と34歳か。もちろん天海ソウ君がガントレットストライカーを愛してくれていることに疑ったことはないですよ」
「はい。彼の熱意は本物です」
役員の言葉に特撮IP担当者も同意する。
「そしてその女優が次の映画でダークウィドウ役を担当します。監督と脚本の方が気に入ってくださいまして」
「次の映画か! はは。それはいいですね。どうせスキャンダルならガントレットストライカー内部で成立して欲しいものだ」
「取締役。その発言は……」
取締役の言葉に慌てる担当者。コンプラにおいても年の差関係は問題になりやすいのだ。