身代わり同士、昼夜の政略結婚
7
「あなたがいらしてから、私の人生は、沈む太陽が投げかける、最後のうつくしい光のようなものでした」


目の前の椅子に座ったアステルが、穏やかに微笑んだ。


連れ添った彼の髪は少し白くなり、夜空に流れ星がこぼれるように、細い筋が幾筋か通っている。


「私は見たことがないけれど、たいそう幻想的だそうですね」

「あら、わたくしもございませんわ。でも、そうですね。綺麗なものの一助になれたのなら、嬉しく思います」


何年も一緒にいるのに、わたくしは相変わらず夫の言葉選びが好きだった。

これは、わたくしなら、意味が正確に分かると思って選んでくれたのだ。


オルトロス王国は、夜の国。星明かりの美しい国。見果てぬ光、素晴らしいものの形容には、朝焼けを挙げる。


言い慣れた朝焼けではなく、夕焼けを挙げてくれたのは、それがアマリリオ王国の見果てぬ光だから。わたくしの故郷だから。

こちらを気遣う優しさは、変わらず態度に現れている。


「アステル。あなたとお会いしてから、わたくしの人生は、いつも穏やかな星々の瞬きに照らされ、導かれておりました」


初めてのことばかりの暮らし。

見知らぬ土地、見知らぬ人、見知らぬ文化、見知らぬ語彙。


知らないものばかりの中で、あなたと二人、身代わり同士の政略結婚。


それでも、あのとき姉に代われたことを、幸いに思う。
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