身代わり同士、昼夜の政略結婚
2
暗い。前が見えないほど暗い。

夜というものは、影とは比べ物にならないほど、黒く、深く、まとわりつくような濃い色をしているらしい。


夜の国では、黒い空には星という光が散らばり、道の端には街灯という明かりが灯されていると聞いている。

けれども、慣れ親しんだ景色と比べると、恐ろしいほどひどく暗かった。


オルトロス王国の言葉では、真っ暗、という暗さの度合いがあると習った。まさしくこれが、真っ暗、なのかもしれない。


初めてベールを外したいと思った。寝るときでさえ白っぽく、闇の中にないアマリリオ王国に慣れたわたくしには、あまりに暗く、あまりに心細かった。


きゅうと、銀木犀と金木犀を混ぜた花束を抱え直す。日差しのない国でも持つように、特別にプリザーブドフラワーにした二色の花が、かさりと鳴った。


アマリリオ王国(昼の国)は、金に一番価値がある。

オルトロス王国(夜の国)は、銀に一番価値がある。


我が国の金と夜の国の銀を模した、友好の証である。


馬車ががたごとと音を立てて止まり、御者が到着を知らせた。


丁重に下ろされて立ちすくむ。ベールの隙間から見える地面は、靴先が見えないほど黒い。


アマリリオ王国では、花嫁は白い衣装を身につける。


アマリリオ王国の服は、太陽光の熱を吸収しにくい鮮やかな色。オルトロス王国の服は、街明かりに反射しやすい淡く明るい色。


だから、両国とも服は黒くない。

花嫁衣装は白で問題ない。白を着ているはず。それなのに、ぼんやりとしか見えない。


固まるわたくしに、手を差し伸べてくれる世話係は、この国にいない。
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