お針子は王子の夢を見る
 休憩時間には、ルシーはあえて明るく話題を振った。
「王子様ってどんな人かしら」
「きっと素敵な人よ」
 同僚が答える。

「王位を継ぐから王太子よ」
「舞踏会で結婚相手を探すって聞いたわ」
「ルシーが見初められたりして」
 言われて、ルシーは頬を染める。
「ありえないわよ」
「赤くなった!」
 くすくすと同僚が笑う。

「結婚式は私達がドレスを縫うわ」
「自分で縫いたいものじゃない?」
「私なら人に縫ってもらいたいいわ」
 話題は尽きなかった。

 ルシーは毎日彼のことを考えた。
 噂では金髪に青い瞳、見目麗しいお姿だという。
 自分の赤い髪はどう思われるだろう。(あで)やかな黒髪でも絹のような金髪でもない。平凡な顔立ちに、暗い紺色の瞳。手入れをしていない肌にはなめらかさもない。

 ルシーは軽く首を振った。
 どう思われようと関係ない。自分の作った服を王子が身につけている、それを見られるだけで幸運というものだ。

 日々を懸命に過ごした。
 そうしてようやくあと少しでドレスが完成するというところまできた。

 心身ともにくたびれてはいたが、完成間近ということでルシーの心は高揚していた。舞踏会まであと二週間、なんとか間に合いそうだ。
 それを、母は暗い目で見つめていた。
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