清くて正しい社内恋愛のすすめ
 初めて間近で見る加賀見の顔は、ドキリとするほど綺麗で、次第に胸の奥底がじんじんと熱くなってくるのがわかる。

 今までライバルとしてしか意識していなかった加賀見に、こんなにもドキドキと鼓動が早くなるなんて。


「じゃあ手始めに、ここでキスでもしとく?」

 加賀見は穂乃莉の心を見透かすかのようにそう言うと、穂乃莉の返事を聞く前に形のいい唇を重ねたのだ。


 ――抵抗する間もなかったもん。


 穂乃莉は再び自分の唇にそっと指で触れた。

 いや、違う。抵抗する気持ちすら追いつく前に、加賀見に心を奪われたのは事実。


 強引に抱き寄せられた腕の力強さ、普段は絶対に見せない瞳の深い色……。

 からかうような言葉の裏で、穂乃莉の後ろ髪をたぐるように首元を支える手のひらは熱く、何度も甘いキスを降らせる加賀見に、危うく穂乃莉は溺れかけた。


 ――なんか……悔しい……。


 海外生活が長かった加賀見は、近しい人に対するパーソナルスペースが狭い。

 昨日のキスだって、加賀見にとっては他愛もないことなのかも知れない。
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