清くて正しい社内恋愛のすすめ
 加賀見は大きく息を吐くと、支配人の顔を正面から見据えた。

「わかりました。今回の件は御社の本社まで、すべて報告させていただきます」

「ふん。天下の“東雲グループ”が、君らごときの話を、そう易々と信じるわけがないでしょう?」

 支配人は馬鹿にしたように鼻で笑っている。

 加賀見は静かに目を逸らすと、穂乃莉の肩を支えたまま入り口の扉へと向かう。

 そして扉の前でぴたりと足を止めた。


「支配人、一つだけ言っておきます」

「なんですかな?」

「うちはKRS(ケーアールエス)トラベル。久留島トラベルだ」

「……久留島? 久留島グループの?」

 首を傾げた支配人は、しばらく怪訝な表情をしていたが、急にはっと目を見開くと穂乃莉の後姿に目をやる。

「久留島って……まさか、君は……」

 支配人はチラッと頭の片隅に残る穂乃莉の名刺を思い出したのか、途端にオロオロと狼狽(うろた)えだした。


 加賀見は支配人を静かに振り返ると、感情のこもらない冷たい視線を送る。


「お前……覚悟しとけよ」


 加賀見はまるでナイフのように、凄みのある声を支配人の元へと突き立てると、呆然とする吉村の前を通り、バタンと大きな音を立てて扉を閉じた。
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