清くて正しい社内恋愛のすすめ

魔法のキス

 加賀見は穂乃莉の肩を抱きかかえるように“東雲”を後にした。

 宿泊するホテルまでは歩ける距離だが、穂乃莉のことを考えタクシーに乗り込む。

 運転手に行き先を伝えるために加賀見が身を乗り出すと、加賀見の身体を引き戻すように穂乃莉がギュッと手を引いた。

 あれだけ怖い思いをしたのだ。

 加賀見は穂乃莉を安心させるように、握った手に力を込めた。


 車は程なくしてホテルの玄関前に到着する。

 フロントでカードキーを二枚受け取る時も、穂乃莉は加賀見の側から離れなかった。

 エレベーターに乗り込み、穂乃莉の部屋の前でキーを差し込むと重い扉を押し開ける。

 加賀見の部屋と作りが同じシングルルームは、薄暗い照明だけがついていた。


 加賀見は穂乃莉の手を引き中へと入ると、ベッドサイドのライトのスイッチを押す。

 そして穂乃莉をそっとベッドの上に座らせた。

 穂乃莉はまだ少し震えているが、真っ青だった顔色は、多少落ち着きを取り戻している。


「何か、温かい飲み物でも買ってこようか?」

 加賀見は穂乃莉の前にしゃがみ込むと、穂乃莉の顔を下から覗き込んだ。

 うつむいていた穂乃莉が顔を上げ、加賀見は外に出ようとゆっくりと立ち上がる。
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